Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

05 手を繋いでみよう

「川島さ、社員旅行の行き先どこにした?」
「えっと、たしかニューヨーク」

 昼休みの社員食堂。
 部署は違えど勤務地が同じ永瀬とは時々昼が一緒になる。食事を終えた私たちは雑談をしていた。
 突然のプロポーズによって壊れたかに思えた私たちの友人関係も、会社内で他の社員がいる前ではプロポーズ前となんら変わらなかった。

「……なんだ、ニューヨークか。俺もニューヨークに……」
「希望提出後の変更は認められません」
「ちっ」

 今のように時々急に会話が小声になるときもあるけど、誰も私たちの間に起きた変化に気づく人間はいないと思う。
 永瀬は通りがかった同じ部署の人間に声をかけられると「じゃあ俺行くわ」と言って立ち去って行った。
 永瀬からの私を嫁にするというこっちからしてみれば宣戦布告のような発言があったのは先週の話。それからは出来る限り二人きりになる機会を避けて今のところやり過ごしている。二人きりになったらなにをされるか分からない。
 嘘みたいなふざけた話。でも、冗談を言ってからかっているようには見えなかった。目が本気だったから。
 ただ、永瀬が本気で私のことを好きで嫁にしたいわけじゃないのは分かった。気持ちは本気じゃないのに、よく本気で嫁にしようとか思えるよね……なにはともあれ、こっちからしてみれば迷惑以外のなにものでもない。向こうの勝手な都合で生涯の伴侶が決まってしまうなんていう悲しい結末、絶対に阻止してみせるんだから。

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