Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「なぜ泣く!?」
「だってぇ……!」

 私の今の心情を知る由もない永瀬は少し慌てる。でも今は胸がいっぱいで涙の理由をうまく説明できそうもない。

「よくわかんねえけど……春からは泣かせるようなことは絶対にない。何があっても俺が守るよ。だから安心してついてこい」

 だからただ黙って頷くのみ。信じてついていける。それが私の気持ちを支配する全てだ。

「……ねぇ、今のはプロポーズ?」

 目を見てそう尋ねると、照れくさそうに笑って一度下を向いてから、いつもの堂々とした力強さと優しさが入り混じった笑顔を見せた。

「綾。……結婚してください」
「……はい!!」

 貰った両手いっぱいの花束を胸に抱えて大きく頷いた。

「素敵な花束だね。ありがとう」
「とりあえず。指輪の代わりに」

 永瀬は私の手から花束を奪うと床に置いた。そして私を抱き寄せすっぽりと腕の中に収まる。

「……あったかい」
「この部屋寒すぎだよ。外雪降ってんだぞ?」

 きつく抱きしめられると今、世界で一番幸せなんじゃないかと思うくらい幸福感に胸が満たされて、今までのことが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
 30歳になったら結婚しようと言った口約束と30歳になるこの年に受けた突然のプロポーズ。過去二度の言葉にはまさか永瀬と結婚することになるなんて夢にも思わなかったのに、今ではそれが現実になって、私の気持ちは決まった。
 私はこの人に一生ついていく。そうすれば世界一幸せになれる。そう、思わせてくれるような人だから。

「俺ん家行く前に先におまえんとこ行こうか」
「うん」
「……緊張する」
「ふふっ、私だって。ご両親どんな人?」

 幸せににやける顔を思いきり胸におしつけて、私の髪を撫でる感触が気持ち良くて目を閉じてぴったりと密着しながら会話をした。
 しばらくしてから、正月に、まさか結婚の報告を受けるなんて思ってもいないだろう両親に連絡を入れた。
 明日、紹介したい大切な人を連れて行くねって。

(おわり)

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