朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
3人で過ごす土曜日。

陽和の体を思ってか…
ゆっくり朝ご飯を食べた後,
ショッピングモールに買い物に
出かける。

3人でいると,本当に
親子なんじゃないかと
錯覚してしまうほど。

「陽和,これはどう?」

「あ…うん…」

朔は,陽和の使う生活用品を
たくさん買っていた。

朔の家で過ごす時間と比例して
朔の家に,陽和のものが
増えていく。

朔と由宇はうれしそうに
その様子を眺める。

なんだか二人の作戦に
まんまとはまっていっている
ようだった。


結局陽和は,朔と由宇に
ねだられて,土曜日も
朔の家に泊まった。





日曜日。
今日は,美咲との約束がある。

前の晩…そして今朝もだけど…
朔の「情熱」はとどまるところを
知らない。

陽和は…そんな朔に
ちょっぴり呆れながらも
…正直なところ…
求められることに喜びを
感じていた。

「じゃあ,気を付けて」

駅まで送ると朔は
言っていたけれど…
美咲と会う手前,
少し恥ずかしい。

何より,朔の家に泊まって
いたのがバレバレなのは
いくら親友の美咲と言えど,
やっぱり照れる。

そう言われると朔も
確かにそうだなと言って
名残惜しそうに陽和を
送り出した。


着替えや泊りの用意は
「置いておけばいいじゃん」
という朔と由宇に押されて
朔の家に置いてきた。

「来週は,陽和用の収納を
 買いに行こう!」

そう嬉しげに語る朔に
陽和は…何とも言えない
幸せを感じていた。

「なんとなく…
 …だけど…私…
 このまま…朔ちゃんちに
 住むことに…なっちゃう
 …かもな…」

陽和は…ぼそっとつぶやきながら
美咲の待つ駅へと向かった。

美咲は,いつもの通り,
改札の前で待っていた。

「あれ?陽和?」

美咲は不思議そうな顔をする。

「ん?どうしたの?」

「どこかに行ってたの?」

「え…いや,今来たところ
 …だけど…?」

「え…だって…電車…」

「あ…」

陽和はとっさに,
「まずい」という顔を
してしまった。

「ははーん,そういうことかあ」

美咲は状況を察して
にやにやと笑う。

「あ…ええ…っと…」

陽和は,すっかりバレて
しまったことを悟って
恥ずかしそうに美咲の方を見た。

「まあ,これからじっくり
 話を聞きましょう~♪」

そう言うと,美咲は
いつものカフェへと
軽い足取りで歩きだした。



「なんかさあ…陽和…
 お肌つやつやだよねえ…」

「ええっ?そんな…こと…」

「やっぱり,恋をすると
 そうなるのかねえ」

「え…そう…なのかな…?」

陽和はどぎまぎとしながら
アイスカフェオレを口に含む。

「ふーん…なんか…
 幸せそうだねえ…」

にやにやと笑う美咲に,
陽和は追い詰められたネズミの
ように視線を泳がせる。

「で…今日は,朔ちゃん家から
 来たの…よね…?」

核心に迫った美咲の問いに
陽和は観念して頷く。

「ふーん,そっかそっか。
 奥手の二人だから
 どうなるかと思ったけど…」

陽和は顔を真っ赤にして
黙り込み,ひたすら
カフェオレを飲んでいた。

「で,やっぱ,朔ちゃん
 体育会系だから…
 激しい?」

ケホッ…

そう聞かれると陽和は
カフェオレをのどに詰まらせて
むせる。

「あはは,陽和ってば
 正直ね…
 そっかそっかあ…」

美咲はにやにやと笑いながら
陽和の様子を幸せそうに眺めた。

「よかったねえ…陽和」

「え…あ…うん…」

「やっぱり朔ちゃんは,
 陽和の王子様だった…?」

陽和はそう言ってからかう
美咲に…コクリと頷いてみせた。

「きゃあ,なんか…
 からかったつもりが
 あてられてるわ。こりゃ」

美咲は嬉しそうにそう言った。

「なんかさ,陽和…
 ますますきれいになった」

「え…やだ,そんなことないよ」

「ううん,何かね,内側から
 滲み出る感じのきれいさ…が
 増してる。

 なんか…うらやましいな…」

「え?」

陽和は驚いていた。
百戦錬磨の美咲から,
そんな風に言われるなんて
思わなかったから。

「だって,そんな風に心の底から
 好きになれる人なんて,
 なかなか見つからないものよ。

 それに…」

「それに…?」

美咲はにやっと笑う。

「朔ちゃんがうらやましい。
 こんなかわいい彼女と
 ラブラブできるなんて!」

「も…もう,美咲ちゃんってば」

2人はそう言って笑いあった。


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