朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
3週間ほど過ぎ,
季節はすっかり冬になった。

「わあ,もう真っ暗だね」

今日は,陽和と由宇が
先に家に帰ることになっていた。

朔は,明日の旅行を控え,
少し残業して帰るとのことだった。

「今日は,何にしよっか?」

「うーん,あったかいものが
 たべたいなあ…」

その会話は,もう,
親子そのものだったけれど,
陽和と由宇の関係性は,
やっぱりどこか,それとは
違っていた。

だけど,家族としての
安心感はお互いに
すごく感じていて…

何とも形容しがたい関係性の
はずなのに,お互い
「家族」であることは
何か揺らぎないものとして
感じ得ていた。

「楽しみだねえ,明日からの
 旅行…」

「うん!
 あのね,さくちゃんが,
 すごくほしがきれいなところ
 なんだって,いってたよ」

「うん,私もすごく
 楽しみ!」

二人は手をつないで
楽しそうに家路についた。




朔は,陽和に嘘をついていた。

本当は今日は…残業ではない。

あるものを…取りに
緊張した面持ちで
街へ出てきていた。

「あれ…?
 朔ちゃん?」

お店から出てきたところで
出くわしたのは,美咲だった。

「わ!わ!
 美咲…」

「どうしたのよ,こんなところで
 え…朔ちゃん…?」

美咲は,朔が出てきた
意外なお店を見返した。

「…よりによって,
 美咲に見つかるとは…な…」

「ええっ…じゃあ…
 そういう…ことなの…?」

朔は苦笑して頷く。

「すごーい,そうなの?
 ええっ,何?
 サプライズ…なの?」

「…おまえ,絶対に
 陽和に言うなよ?」

「…うんうん!!」

美咲は目を輝かせて
大きく頷いた。
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