朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~

突然の別れ   朔ちゃん・・・ごめん・・・

今日は中学の入学式。

陽和はセーラー服の
リボンを結びながら
朔のことを思い浮かべていた。

 朔ちゃん・・・
 どう思うかな,制服・・・。

 もし・・・今日
 朔ちゃんから話しかけられたら・・

 私も好きだったって・・
 ちゃんと・・ちゃんと
 伝えよう。

 同じクラスに・・
 なれたらいいな・・。

そんな淡い恋心を
新しい制服でくるんで・・

新しい生活を
輝きながらスタート
させるはずだった・・・。




中学校の校舎に入り,
1年生の教室前には
クラス割り表が
貼り出されていた。

陽和が探している名前は
見つからない。

「ひーちゃん,また
 同じクラスだね。」

美咲が声をかけて来た。

「あ,美咲ちゃん。
 よかった~!
 よろしく。」

陽和は無理やりテンションを
上げて美咲にそう言った。

陽和は美咲と話しながらも
朔の名前を必死で探した。

 ・・・どうして・・・?

だけど・・やっぱり
見つからなかった。

教室に入りながらも
陽和は絶望的な気持ちに
なっていた。








1か月後。

美咲と陽和は吹奏楽部に入った。

陽和はクラリネット,
美咲はフルートで
楽器は違っていたが,
相変わらず二人は仲良しで,
いつも2人で下校していた。

「ねえ,ひーちゃん・・?」

「何?」

「・・・朔ちゃんのこと
 ・・・何か聞いた?」

「え?」

突然,美咲の口から
朔の名前が出たので
陽和は返事に困った。

「な・・・何・・・って・・?
 引っ越した・・んだよね?」

そのころには,
陽和の耳にも朔のことは
なんとなく
風のうわさが届いていた。

「私ね。
 卒業式の日に
 朔ちゃんに告白したの。」

「え!?」

陽和は驚いた。
美咲も朔のことが
好きだったのか・・・。

「でも・・・ふられたけどね。」

「え・・・。」

「朔ちゃん,ひーちゃんのことが
 好きだって言ってた。」

「・・・。」

陽和は驚いたような
恥ずかしいような・・・
でもちょっぴり嬉しいような
気持ちになった。

朔が言ってくれたことは
ホントだったんだ。

「朔ちゃん,ひーちゃんに
 告白したんでしょ?」

「あ・・・う・・ん。」

「ひーちゃんの気持ちは
 どうだったの?」

「え・・わ・・わたし・・は・・。」

陽和は美咲に問い詰められて
困ってしまった。


自分が臆病なせいで・・・
朔に何も伝えられなかった。

陽和はそのことを
再認識させられた。
そんな自分は
「朔ちゃんを好きだ」
なんていう資格はない。

また涙があふれてきそうに
なった。
だけど,美咲の前で泣くのは
失礼だと思った。
ちゃんと思いを伝えた
美咲はえらい!陽和は
そう思っていた。

陽和は後悔の思いを
どんどん強めていた。

 私の臆病のせいで
 みんなをふりまわして
 傷つけた。
 朔ちゃんも。
 美咲ちゃんも。

 頭の中で後悔が
 グルグルと廻る。

陽和の目からは
自然と涙があふれ出していた。

「みさ・・きちゃん,
 ごめん,
 先に帰る。」

そのときの陽和には,
そういってその場から
走り去るのが
精いっぱいだった。

家までの道のりを
涙を流しながら
走った。

 朔ちゃんの気持ちが
 嬉しかったのに・・・
 どうして返事も
 できなかったんだろう。

 もう・・・二度と
 朔ちゃんに
 会えないかもしれないのに。

陽和は自分のベッドに
飛び込んで・・・
声をあげて泣いた。

その日は晩御飯も
食べずに,
泣き続けた。

自分が情けなくて
悔しくて。

ちゃんと言葉で
伝えられる勇気がある
朔や美咲が
うらやましくて。

そして朔に
申し訳なくて。


陽和はその日,決めた。

もしも
朔にもう一度
会えるならば・・・

あの時の気持ちを
ちゃんと伝えよう。

嬉しかったって。

ホントは大好きだったって。

そしてそれまでに
ちゃんと自分の言葉で
伝えられるように
強くなりたい。

ちゃんと朔ちゃんと
向き合えるように・・・

これまで自分を守ってくれた
朔に感謝して・・・

強く・・・なる。

そう決めた。




そう・・・
陽和が夢に見るのは
決まってこのときのこと。

「朔ちゃん・・ごめん。」
って思いと,
自分への情けなさで
いつも涙が流れて・・・

そこで・・・
目が覚める・・・。


まだまだ強くなりきれない
自分が・・・情けない。

もしも
次に朔に会うときには
少しでも強くなっていたい。

それが・・・
この10年の
陽和の・・・思いだった。
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