赦せないあいつと大人の恋をして
二人の未来

 ゴールデンウィーク明けの日曜日。

 私は初めて龍哉の家族に、お会いした。厳格そうな、でも温かい笑顔のお父様とお兄様ご夫妻。

「女遊びだけで生涯を終わるのかと心配していたが……。ちゃんと女性を見る目だけは養っていたようだな」
 と笑っていたお父様。

「この何年か仕事にも積極的になったし何があったのかと思ってたよ。龍哉には勿体無いくらいの素敵な人を見付けてたんだな。綾さん、龍哉をよろしくお願いします」
 お兄様も喜んでくださった。

 ご挨拶だけで、その日は失礼した。龍哉の車に乗って

「良かった。結婚なんて許さないって言われたらどうしようって……」

「心配してたのか? ばかだなぁ。綾を見て反対する家族なんている訳ないだろう」

「そうね。品行方正が服着て歩いてる浮いた噂一つない早崎 綾だから」

「はぁ? 何それ?」

「私、会社でそう言われてるみたい。知らない女子社員がそう言ってた」

「確かに入社して来た時は、そんな感じだったかな」

「龍哉もそう思ってたの?」

「違うよ。上品で美人でスタイルも良くて憧れてたって前に言ったろ」

「今は?」

「今ここで言っていいの?」

「えっ? ここで言えないような事を思ってるの?」

「さぁ、どうかな」龍哉は笑ってる。



 少しドライブして龍哉のマンションに帰った。部屋に入って

「なんか疲れた……」
 ソファーに座った。

「そんなに緊張してたのか?」
 龍哉もとなりに座る。

「緊張するわよ。龍哉のご家族に初めてお会いするんだもの」

 そっと抱きしめられる。

 龍哉のすべてが愛しい。囁く声も骨張った大きな手も私を抱きしめる筋肉質な腕も熱い胸も。龍哉の体から発せられる男らしい匂いも。

「綾……。きょうはありがとう。俺の家族に会ってくれて感謝してるよ。俺たち、きっと幸せになろうな」
 
「どうしたの? きょうの龍哉いつもと違わない?」

「綾がフワフワしたワンピース着て来るから思い出したんだ。綾とお見合いした時も、こんな感じのワンピース着てただろう?」

「あぁ、同じ物じゃないけど。そうね」

「あの時の気持ちを思い出した。綾は俺なんかには手の届かない高嶺の花だった。だから怖くなったんだ。本当に俺なんかで良いのかって……」

「私はずっと龍哉の傍に居るわ。龍哉だけを愛してる。ずっと愛してね。私を離さないでね」

「勿論だ。もう綾以外は愛せないって言ったろう」

「他の女の人を抱いたりしないでね……」

「そんな事する訳ないだろう。俺には綾だけだ。綾のすべてに溺れてる。他の男になんて絶対に渡さない。そうだ。さっきの答え」

「ん? なに?」

「今、綾のことをどう思ってるかって話だよ。いつも上品な綾が俺の腕の中で妖しく乱れる姿が可愛くて堪らない。あんな色っぽい姿は誰にも見せたくない。俺だけの一番綺麗な綾だよ」

「ばか……。他の人に見せる訳ないでしょう。龍哉だけよ。ねぇ、シフォンのワンピースとかは好きじゃないの?」

「そんなことないよ。仕事のスーツ姿も、ふんわりしたワンピースも素敵だ。エプロン姿も良いし。でも一番好きなのは……。何も身に着けない裸の綾かな」

「もう……。ばか」

「きっと男は、みんなそうだと思うけどな」

「龍哉、いやらしい……」

「じゃあ、綾は? 俺のどんな姿が好き?」

「私はね。仕事をしてる時のスーツを着てる龍哉が好きよ」

「裸の俺は? 結構いい体してると思うけど」

「どうして話が、そこに行くかな」
 龍哉の裸の後ろ姿がセクシーで好きだなんて絶対言えない……。
「龍哉の体温が好き。あったかくて安心出来るから。今も……」

 龍哉との誰にも邪魔されない二人だけの時間が、とても貴重で幸せなんだと思う。



 子供の頃から憧れ想い描いていた恋愛とは、かけ離れたものだったけれど……。
 始まりは、望んでいたような夢見がちな甘い出会いではなかったけれど……。

 今、この時間を目の前にいる大切に思う人と一緒に生きていきたいと願える私の心を信じている。

 人間だから間違えることだってある。間違いだと気付けたら、きっと何度でもやり直せる。今の私の選択が正しいのか間違っているのかは、流れる時間が教えてくれるのだろう。

 龍哉と二人で、これから歩いて行く道には綺麗な花が咲き香り、変わらぬ愛情に満ちて、幸せを心から感じられる、そんな人生であって欲しい。

 たとえ嵐の夜が来ても、悲しみの海に沈むようなことがあっても、きっと乗り越えて行ける。二人なら乗り越えられる。

 そういう明日を一日一日重ねて生きていこう。
 愛する龍哉と共に……。



 龍哉の指先が私の頬に触れる。

「来週は綾の家族に挨拶に行くんだな」
 私を見つめてる。

「そうね」
 私も龍哉の目をじっと見る。

「俺、大丈夫かな?」

「何が?」

「綾のご両親やお兄さん夫妻に気に入ってもらえるかな?」

「心配?」

「そりぁそうだよ。綾と違って品行方正が服着て歩いてないからな」

「今の龍哉なら、きっと気に入ってもらえると思う」

「昔の俺には、いろいろと前科があるからな……」

「自覚してるのなら大丈夫よ」

 私は笑いながら龍哉の頬にそっとキスした。



          完


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