赦せないあいつと大人の恋をして
一人暮らし

 こんな時、一人暮らしで良かったと心から思う。

 父はともかく、母親の目は誤魔化せないだろう。私に何かあった事に、きっと気付く。こんな事で心配も掛けたくなかったし知られたくもなかった。

 実家は車で二十分も走れば着く距離にある。厳格なようで一人娘の私には甘い父が出した最低条件だった。何かあった時、すぐに行き来出来る実家から近い場所である事。

 今の私は何かあっても実家に帰ろうとは思わないけれど。

 私には五歳違いの兄が一人いる。高校、大学とラグビー部で活躍してキャプテンも務めていた。だから家には、がたいの良い男たちが、いつもごろごろ居た。あの男臭さが、私は苦手だった。

 華奢な神経質そうな理系男子が好みのタイプになったのは、その反動だと思う。

「綾ちゃんと付き合いたい」
 なんて言い出す輩もいたけれど兄は
「綾は、まだ子供だから」
 と断ってくれていたみたいだった。

 兄はいつも優しくて大好きだった。小さい頃は、お兄ちゃんのお嫁さんになるなんて言っていたらしい。記憶にはないけれど……。

 高校くらいまでの友人には「綾はブラコンだからなぁ」とよく言われた。そんな事は……ないと……思うのだけれど……。

 私が大学を卒業する年の秋に兄が結婚する事になった。初めは兄達が近くのマンションに住む予定でいた。でもいずれ両親と同居予定だったから

「初めから、ここで一緒に住めばいいのに」と私が勧めた。

 父は輸入家具を扱う会社を経営している。兄はそこを手伝っていた。いずれ後を継ぐだろう。

 私にも会社を手伝うようにと言われたけれど、私は自分を試したかった。一社だけと約束して、落ちたら父の手伝いをするのを条件に今の会社を受けた。もし就職が決まったら一人暮らしも認めて貰う約束も。

 小姑は居ない方が兄嫁も気苦労が一つ減って丁度良いだろうと気遣ったつもりだ。だいたい私はいつか結婚して家を出るんだから……。と当時は思っていた。そうすると両親の老後の面倒は後継ぎである兄夫婦の役目になる。

「私より兄さんのお嫁さんを大切にした方が良いと思うけど」
 父を説得した。後から同居するより最初から一緒の方が上手くいくと思う。

 そして私は今の会社に就職が決まり念願の一人暮らしが始まった。高校時代や大学からの仲の良い友人が泊まりに来て朝まで喋ったり、誰にも邪魔されない自分一人の空間が、とても快適だった。

 今まで、この部屋に来た男性は父と兄だけ。これからも、きっとそうなんだろう。
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