赦せないあいつと大人の恋をして
過去
「お父さんは、どんな方?」

「どんなって……。男の中の男って感じかな? とにかく仕事は完璧だし妥協は許さない。でも、母さんを亡くしても再婚もせずに俺たちを育ててくれた。感謝してるんだ。きっと寂しかったと思う。今なら分かってあげられるけど……。もしも当時、新しい母さんなんか連れて来られたら……。俺は、もっと反抗して、どうなっていたか分からないな……」

「……。そう。素敵なお父様なのね」

「ぜんぜんイケメンじゃないけどな」

「見た目じゃないわよ。男の人は生き方とか考え方とか……。自分の信念みたいなものをちゃんと持っているから素敵に見えるの」

「そうだな。じゃあ、俺は失格かな?」

「どうして?」

「いいかげんな毎日を送ってた。遊んでばかりいた。人を傷つけた……」

「でも、それに気が付いたんでしょう? だったら過去の自分を反省してやり直せば良いことじゃないかな?」

「君が気付かせてくれたんだ。だから感謝してる。君のような人に巡り会わなかったら、今でもクダラナイ毎日を送ってたと思う」

「…………」
 それなら……。あの出来事も無駄ではなかった。……のかな? 簡単に割り切れない思いはあるとしても……。

「どうした?」

「あっ、ううん。何でもない」
 そう。何でもない。どうってことない。私は、ちゃんと生きているし、自分に後悔はない。

 誰もが、みんな少しずつ傷つきながら生きていくものなのだと思う。そんな小さな傷に固執したら前には進めない。どんなマイナス要素だってプラスに変えていける。

 龍哉さんは変わった。あの時の龍哉さんは、もう存在しない。だから私の傷だって、もう存在しない。
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