赦せないあいつと大人の恋をして
公園
 お店を出て車に乗った。龍哉さんは車を走らせながら通りから離れて行く。少しずつ道が狭くなって行くような気がする。小高い丘の上の駐車場のような場所に車を停めた。

 夏なら、まだ明るい時間なのに辺りはもう暗く、人の気配も感じない。さっきまで居た街の灯りが綺麗に星のように輝いている。空には星は見えない。車のライトを消したら、ぼんやりした街灯の明るさだけ。

「ここ、どこ?」

「俺が子供の頃よく遊んだ公園」

「公園?」

「子供の時は大きな公園に見えたんだけど、今見ると狭くて驚くよ。でもあの頃は、ここが世界の全てだったような気がしてた。すべり台の下やジャングルジムが秘密基地だった」
 そう言って龍哉さんは笑った。

「見てみたい。龍哉さんの秘密基地」

「外は寒いよ。ちょっとした高台だから風当たり強いし」

「大丈夫よ」

「そんなこと言って、また風邪ひいても知らないぞ」

「また看病して貰うから」

「しょうがないな。少しだけだぞ」

 車のドアを開けて外に出た。冷たい風が吹き抜けて行く。

「こっちだ」

 龍哉さんの後ろを歩いて行くと葉を落とした木々の間から小さな公園が見えた。すべり台がある。ジャングルジムも……。

「ここで毎日、日が暮れるまで遊んでた」

「家の近くにも、こんな公園があった」

「暗くなっても帰らない友達をその子のお母さんが呼びに来るんだ。いつまで遊んでるの。もう晩ご飯の時間でしょって。それで仕方なく、みんなで帰るんだ。何でもない毎日が楽しかったな」

 私はその時ふと気付いた。龍哉さんのお母さんは? もしかしたら、その頃には、もう病気でここまで迎えには来られなかった……。堪らない気持ちになって私は龍哉さんの前に回って思わず抱きしめた。

「龍哉、もう帰らないと晩ご飯の時間でしょ」

「あぁ、帰ろうか。冷えて来たし……」

「ここに他の誰か連れて来た事あるの?」

「いや。綾が初めてだ」

「そう。お母さんの代わり」

「うん。やっと迎えに来てくれた……」
< 75 / 107 >

この作品をシェア

pagetop