赦せないあいつと大人の恋をして
当然の報い

 あれから三ヶ月が経って夏になった。私は夏休みをとって高校からの友人と沖縄の海に遊びに行った。青い空、眩しい太陽、どこまでも広がる海……。つまらないことで悩んで毎日を消耗するのがバカバカしくなっていた。クダラナイ人間とは関わらないと決めた。
 

 夏休みを終えて出社すると彩花が知らない間に会社を辞めていた。

 後に営業部の女の子たちが噂をしているのを聞いた。誰の子なのか分からない妊娠をして、付き合っていた男達からも相手にもされず、それが親にバレて田舎に連れ戻されたと。
 
 当然の報い……自業自得だ。同期の女の子たちも誰一人彼女を庇おうとはしなかった。



     *



 彩花の田舎は静岡。
 とある病院の病室のベッドで彩花は麻酔から覚めて目を開けた。

「気が付いた? 気分はどう?」
 年配の看護師が手を握っていてくれた。

「あぁ、はい。大丈夫です」

「何だか酷く、うなされてたけど……」

「私、何か言ってましたか?」

「痛い、痛いって。それからアヤ? ごめん、ごめんなさいって」

「…………」

「何があったのかは聴かないわ。ここに来る子たちは色んな事情を抱えてる。でも、あなたは若いもの。まだまだこれからよ。幾らでも遣り直せる」

「そうでしょうか?」

「だって、こんなに可愛くて魅力的な女の子なんだから」

「…………」涙が零れた。

「もう少し休みなさい。点滴が終わる頃にまた来るからね。大丈夫ね」

「はい。大丈夫です」笑顔で答えた。



 綾……。
 私は彼女にだけは負けたくなかった。勉強でも恋愛でも……。

 こんな田舎に帰るのが嫌で、どんな事をしても良い男を捉まえて玉の輿に乗る。でも私に近付く男は、みんな綾を絶賛する。育ちが違う。品がある。私には無いものを全て持っているような綾が疎ましかった。

 悔しくて……。綾を好きな男達は、みんな誘惑してやった。 私の誘いに乗らない男はいないと言ってもよかった。あの先輩ですら……。綾の憧れの人。私は勝ったと思っていた。

「君の体は確かに魅力的だ。誘惑されて拒める男はいないだろう。でもそれだけの事。これ以上、自分を貶めるような事は止めるんだ。いつかきっと後悔する」
 あんなに激しく私を抱いた後に言われショックだった。それでも私は目が覚めなかった。綾をめちゃめちゃにしてやりたかった。

 自分が女として最低な状況に居る今、やっと気付いた。私は誰にも愛されていなかった。悲しい現実を突き付けられた。
 
 綾、ごめんね。許して貰えるなんて思ってないけれど……。



 それから彩花が東京に出て行く事はなかった。

 彩花が帰った日、初めて彩花の頬を思いっきり殴った父親の
「痛いだろう? その痛みは、お前だけじゃなく母さんや俺の痛みだ。よく覚えておけ」

 父親の言葉が身に染みた。殴った父の目に涙が光っていた事も……。
 中絶手術の同意書の父親の欄に何も聞かずに署名してくれた従兄妹には本当に申し訳ないと思っている……。


 彩花はしばらく家業のお茶畑を手伝っていたが、伯父のツテで地元の信用金庫に勤め始めた。田舎が嫌で都会に憧れて必死で勉強していた頃が懐かしかった。今はこの町の優しい穏やかさが心を落ち着かせてくれる。

 あの頃、私は一度でも誰かを本気で愛したんだろうか? その時、突然思い出した。

「これ以上、自分を貶めるような事は止めるんだ。いつかきっと後悔する」

 先輩……。今頃、後悔しても、もう遅いですよね。
 どうしてあの時、気付けなかったんだろう……。
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