赦せないあいつと大人の恋をして
一番幸せな日
 綾が心を込めて作った鶏なべを龍哉は本当に美味しそうに食べた。
「美味かった。料理も得意なんだな」
 綾に欠点なんてあるのだろうかと龍哉は考えていた。

「そう? 得意じゃないけど実家でも母を手伝っていたから。見てるだけで何となく覚えて作れちゃう物なら色々あるけど」

「お料理教室とか通った訳じゃないんだ」

「うん。全然。さてと片付けよう」

「あぁ、手伝うよ。誕生日の綾に作って貰って、後片付けくらいしないとな」

「そう。ありがとう」

 小さなキッチンで二人で洗い物。すぐに片付いた。こんな風に綾と一緒に居られたら、きっと生涯幸せだろうと思っていた。手を洗ってハンカチで拭いている綾を背中から抱きしめた。

「綾、俺、生まれて来てから、きょうが一番幸せだと思ってる」

「本当?」

「あぁ。すごく幸せだ」
 今までの龍哉の人生にはなかった信じられないくらいの幸せ。幸せと言う言葉の他に例えようがないくらい。

「私も幸せよ。龍哉が幸せだと言ってくれるのなら、私はもっと幸せ」

 綾を完全に独り占めしている。世界中のすべての人たちに自慢して歩きたいくらいの幸せ。愛しい綾は腕の中に居る。もう手放すなんて生涯きっと出来ないだろう。

 龍哉は本気で愛する事を綾に教えられたと思っている。愛し合う素晴らしさを実感していた。

 遊びで付き合った女なら過去にいくらでも居た。どんなに見た目の良い女でも抱いた後には虚しさしか残らなかった。また会いたいとも思わない。その場限りの後腐れのない付き合い。そんな付き合いしか知らなかった龍哉には全てが新鮮だった。

 恥ずかしそうに体を預けて来る綾が、心から愛しくて堪らない。抱いても抱いても、また抱きたくなる。

 愛のある行為が、これほど体も心も充たされるものだとは知らなかった。

 少しずつ積み重ねて行く二人の関係。相手を大切に思う気持ち行動、すべてが男として満足出来るものだった。綾を胸に抱きしめて、柔らかい体に甘い香りに……。龍哉は男として生まれ変わったくらいに感じていた。

 これからは綾を幸せにする事だけを考えて生きる。それが龍哉にとっての最高の幸せなのだと確信していた。
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