妖しく溺れ、愛を乞え
「あ、ああ。雅ちゃんか。やっとかけてきてくれたね」

「すみません。突然……あの、あの!」

 落ち着け。1度深呼吸をする。ちゃんと話をしないと。

「深雪が、居なくなったの」

 少しの間があり、圭樹の声が聞こえた。

「……そうか」

 すっと、息を吸う音が聞こえる。ショックなのか、それとも、感じていたのか。

「最初、どこかに出かけたのかと思って……でも、戻って来なくて。待っていたんだけど。居なくなって、数日経ってるの」

「雅ちゃん」

「部屋の荷物はそのままなの。ちょっと、体調を崩すことが多くなっていて、だから、あの、帰って来るんだと思っているんだけど」

「落ち着いて」

 圭樹は、静かに言っていた。でも、焦る心が静まらない。

「どこに、どこにも居なくて、探したんだけど、どこかで倒れていたらどうしよう……!」

「雅ちゃん、ねぇ」

 だって、こうしている間にも、深雪は、深雪は!

「もう、消滅……してるんじゃ……!」

「落ち着いて、よく聞いて」

「お願い。もうあなたしか……あたし、頼れる人が居ないの」

 本当に、圭樹しか居なかった。誰も居ない。助けて欲しい。
 圭樹は静かな声でもう一度「落ち着いて聞いて」と言った。

「あいつの気、小さくなっているのは確かだ。今にも消えそうだ」

「や……」

 やはり、仲間で分かるみたいだ。存在を感じることが出来るんだ。

「でも、生きている」
  
 生きている。

 間髪入れずそう力強い言葉で言われて、揺れていた視界がぴたっと止まった気がした。狼狽えるあたしには、なにより心強い言葉だった。

「いき、てる」

 噛みしめるように言った。
 なんて温かい言葉だろうか。希望のある言葉だろう。絶望に傾いていた心が、倒れる前に支えられた。まだ、終わっていない。

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