妖しく溺れ、愛を乞え
◇
朝、目を覚ますと、窓から入る光で天気が良いことが分かった。そして、とても良い匂いがする。
「ああ、また早起きできなかった」
ベッドの隣は、既に空だ。またか。眠くて仕方ないんだよ! もう!
もそもそと起きて、モジャモジャになった髪の毛を後ろにクリップでまとめた。
そこで全裸だったことに気付く。ベッドの下に落ちている部屋着の上と、とりあえず下着を履く。どうせ着替えるし、これで良いや。
リビングに行くと、そこから見えるキッチンに立つ、エプロン姿の愛妻……じゃなくて妖怪。エプロン姿の妖怪。少し驚いた。黒髪ではなくて、昨夜の姿のままだったからだ。白い長髪の深雪のまま。
「……どうしたの、その格好」
「おはよう。なにが?」
「その、髪」
まさかそのまま出勤するつもりじゃないでしょうね。自分の目にはりつく目ヤニを指でほじくりながら思った。
「たまには刺激的な朝も良いと思って」
「ちょっとなに言ってるか、わからないです」
あたしは洗面所に行き、歯ブラシに歯磨き粉を付けて口に咥えた。
鏡の中の自分を見て、がっかりする。寝起きの顔が酷過ぎる。女は愛されると綺麗になるって、迷信? 都市伝説かなにかなの?
リビングへ戻ると、白い深雪が甲斐甲斐しく朝食の準備をしてくれている。あ、卵焼きだ。
「あ~起こしてくれれば良いのになぁ」
「そろそろかなとは思っていたが。朝食は出来ている」
そういうことじゃなくて……。
「今日は一緒に行こう」
「え?」
「たまには良いだろう? 一緒にビルへ入らなければ良いだけだし」
いままで、一緒に通勤したことは無かった。いつも深雪が先に出て行くし。