ラヴィアン王国物語

★☆★

(あの後の魔法うんぬん、思い出しても苛々する! 初めてだったのに!)

 アイラは回想を終え、ラティークを叩いたお陰でまだひりひりする手を擦った。

(なんで迷惑掛けられたあたしの手が痛む。理不尽だ。もう絶対拘わりたくないし、ハレムに行く必要もない! ううん、逢いたくないし! 顔も見たくない)

 ヴィーリビアの民がいなかった事実が、せめてもの心の慰めかとしょんぼりと歩いていると、山のような土がアイラに向かってのそのそと、進んできた。

「象のうんちが通りますよ〜」

 聞き覚えのある声に、アイラは足を止めた。

「サシャー、何してるの?」
「あ、姫様」すっかり肉体労働に明け暮れた顔で、サシャーはにっこり笑った。
「あたし、第一王子であるルシュディさまにお仕えする話になりまして! 象のお世話を任されたのですわ。でも新人は、うんち運びからだと言われて、こうして捨てに」
「そういう意味じゃない。おまえ、象のお世話しに来たわけじゃないし、あたしも、王子のわけわからん魔法に翻弄されに来たわけじゃないでしょ!」

 半分は、ラティークにすっかり翻弄された、アイラ自身への苛立ち。八つ当たりに気付
いて口調を緩めた。

「魔法、ですかぁ……」

 訝しげなサシャーの前で、アイラは口元を押さえた。

 そもそも。ラティーク王子が風の子供の精霊詰め込んだランプぶら下げてるなんて、信じられない話……。
 つんとした臭いが鼻を掠った。集団で詰まっている象の……が思考の邪魔をしてくる。

 アイラはちらと山盛りの土を見た。

(ちょうどいい、手車を押してウロウロしてみようか。不審に思われないだろうし、むしろ、笑われて相手にされないくらいが探りやすいかも)

「それ、捨てに行くのよね。あたしも行く」

 しかし、歩き出して後悔した。アイラの赤いトーブはともかく目立った。一目で「ラティークさまの……ヒソヒソ」という具合でハレムでしか通用しない。ちょうど、踊り子が平然と街を闊歩しているようなものだ。いくら小さくても、膨らみが露わになるデザインのトーブは眼を惹く上、「えっちな感じですねぇ」とまたサシャーがコロコロと変に響く妙な声で呟いたりする。

「見世物じゃないのよ! あたしの胸は! 見せる部分、ないし!」

 言いつつ、哀しくなって眼をやると、お誂え向きに男物の服が干してあった。
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