ラヴィアン王国物語
(……なに、この状況。あたし、親友に冷たくされて凹んでいるのに……)

 おずおずと広い背中に腕を回した。砂漠は暑いから、互いの体温のほうが冷たかったりする。
 すっぽりアイラを囲った四肢は、しっとりとして心地良かった。


「実は、剣は偽物。確かめたかったから。驚かせて、済まない」

 ラティークはアイラから腕を解き、持っていた短剣をぐにっと曲げた。いたずらっ子の
顔をして、済まなそうに双眸を伏せて見せた。また魔法の嵐が吹き荒れた。

★☆★

 ラティークは腰に下げたランプをガコガコ鳴らしながら、第二宮殿までアイラを誘った。
月が綺麗だ。足で噴水を蹴飛ばすと、水滴の乱舞が宙に描かれる。

「噂を聞いた。他国の艦隊が、ラヴィアンに向けられると。てっきりヴィーリビアの大艦隊かと思ってきみを疑った。大艦隊と言えば、きみの国しか思い浮かばなくてね」

(お兄が気付いた?)と冷や汗が垂れたが、兄のシェザードには洩れていないはずだ。

「呼び寄せる理由もないし、連絡手段もないよ?」
「そうだよな。とんだ早とちり」とラティークは眼元を赤らめた。冷静ではあるが、相当動揺している様子だ。ちょろちょろする緑の虎が見えない事実に気付いた。

「ねえ、シハーヴは?」
「僕がいいと言うまで出てくるな! と反省させている。きみを置いて逃げただろう。契約を破棄してもいいくらいだよ。どこが精霊なんだ」
「まだ子供なのよ。それに、許してあげて。第一宮殿、怖がってたから」

 夜空に青い水が噴き出している。ヴィーリビアを思い出し、途端に不安の泉がアイラの胸で噴水となって、黒い水を噴き上げ始めた。

「ねえ、こんなに水が溢れているのって砂漠なのに、変。地下の皆の命が使われているんじゃなくて?」
「まだ言っているのか、大胆な仮説」とラティークは息を吐き、肩を大きく揺らした。

「確かに勢いを増してはいるね。闇の精霊が怯んでいる。いただろ、兄貴の側に」

 アイラは目を閉じた。レシュでいっぱいいっぱいだったが、精霊はいなかった。

「精霊……? 動物は象しかいなかったけど。まさか象に擬態してるの?」

「おかしいな。精霊は絶対につかず離れずにいるものだが。まさか、あの毛虫集団が契約精霊なはずはないし。側にいると睨んだんだが」

「あたしに探らせたわけだ……いいよ、許してあげる。いつかの助けてくれた御礼」

(やっと言えた……伝わるといいんだけどな。もうちょっと可愛く伝えたかったのに)

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