ラヴィアン王国物語

★3★

 弱気になっては、(はっ)と気付いて背中を探る。
 毛虫がいないかを確認しては、アイラはウロウロと歩き回った。

(もう、少しも落ち着かない。毛虫、まだ張り付いてたりしないかな)

 アイラの部屋はラティークが大部屋から移動を命じたせいで、第二宮殿の南の広々とした部屋に変わったが、どうにも落ち着かない。調度品がすべて金の影響だ。
 ぼふ、と設えられた寝台に体を投げ出した。だらりと両手を下げて天井を見上げる。

 ——堂々と、たった一人では、僕の愛は溢れてしまう。だって。

(ああも博愛を宣言されると、しらけてくる。あたし、十把一絡げは大嫌いだし。ちゃんと自分だけを見て欲しいと思うは当然だよ)

 アイラはいくつもあるクッションを持ち上げ、ぼすっと壁に向かって投げた。

(そもそも、魔法で心を操ろうなんてするから! 素直になれないの! 腹が沸騰するああもう! 心臓の小犬、きゅんきゅんうるさい)火照った顔を腕で隠した。

 ——もうやだ。もうやだもうやだ。ラティークと拘わると、必死で作り上げた王女の尊厳がどこかへ逃げて行こうとする。これ以上、怪しげな風の魔法で引っ掻き回さないで欲しい。アイラの脳裏の中で、ラティークが寂しそうに笑った。


『僕も消されるかも知れない』


(本当に、毛虫の弱さで出た言葉? 

ラティーク王子の本心、わからない。

怖い。

以上に自分が何やっているのか、何をしたいのか。何かやらかしそうで我ながら怖い)


 ぐるぐるした脳裏をぶん投げるつもりで、起きた。





 ——よし! 水飲もう! 悲観的な思考は、喉が渇いているせいだ。

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