ラヴィアン王国物語

★4★
「やっぱり! 宮殿が燃えてるんだ!」


 ラティークのハレムのある一際巨大な宮殿に、いくつもの黒い影がかいま見えた。


(なにが起こったのだろう)

不安でへたり込んだアイラの視界に、人影が映った。

僕は暗殺されるかも知れない


なんでこんな時に思い出すの……?

「砂漠の盗賊か! 敵襲か!」

宮殿前では、衛兵たちが右往左往していた。就寝していた奴隷たちも飛び出して来た。大変な騒ぎだ。丸い屋根は既に火で包まれていた。

「逃げなさい! 砂漠へ。第二王子ラティーク樣が皆を国から逃がすでしょう!」

 書記アリザムの采配は的確だった。城壁に立ち、皆をどんどん外へ逃がしている。

「そこの奴隷! ……あ、アイラ、殿か! 逃げたほうがいい」
「アリザム! ねえ、なにが起こったの?」
「ラティーク王子暗殺です! 火の精霊と、他国の軍隊が同時に迫って来ている」

 ——暗殺! ラティークの言葉が現実になって押し寄せていた。

 絢爛豪華だった宮殿は今や炎と光に晒されていた。
 アリザムの低い怒鳴り声と真っ赤な炎の間で火の精霊が二人で飛び回っている。通り過ぎる度に、火が大きくなった。

(あの子たちが燃やしてるんだ!)

『なんでアタシら、こんなん燃やさなきゃなんねぇの? 契約? マジ笑えね?』

 ——火の精霊は、なんでもかんでも燃やし尽くすオンナばかりの精霊。火は笑い声と共にボウボウに燃え上がり、オレンジ色に発色して広がり始めた。

(あの子たち! ひどいことして! 止めさせないと!)

 アイラは勇ましくもズカズカと燃える宮殿に近づいた。熱風が足元を吹き抜けた。

「やめなさいよ! 誰と契約しているの! 大人しく帰って」

『おや、なんかァ、ムカつくオンナがァいるんですけどォ』

炎を揺らめかせたまま、精霊がアイラに気付く。二人はヒソヒソ話を始めた。からかわれている。

『あんた、そこ退きな。王子を燃やせって言われてんだ。宮殿はおまけさ』
『そうそう、こんがりとね。見目がいい男は久しぶりなんだ。邪魔すんな』

 どうやら、博愛主義のラティーク王子は、今度は火の精霊に魅入られたらしい。

「誰の命令よ。王子を焼けなんて! 王子はパンじゃないのよ」

『教えるかーよ。小娘。あたしらは契約が全てなんだ。邪魔すっと、焼くよ! こっちも
契約なんだ! 必死なんだよ!』
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