遠すぎる君

遼はいつも家まで送ってくれる。

自転車を押して歩くこともあれば、後ろに乗っけてくれたり。

この時間が何より嬉しい。
昔やりたかった下校デートは、今、遼が会いに来てくれるために毎日出来てる。

ネックレスをもらったこの公園にも必ず寄るようになった。

「明日はバイト?」
「ううん、休み。図書館行く?」
「そうだな……土曜日だけど補習あるからなぁ。その後、迎えに来てもいい?図書館じゃなくてどっか行かね?」

ブランコに揺られながら、デートのお誘いを受けた。
初めてかもしれない。学校帰りじゃないのは。

「……え?でも勉強はいいの……?」
せっかく誘ってくれたのに、こんな言葉しか言えないなんて。

遼は隣で思いっきり漕いでいたのを止めた。
まだ大きく揺れている。

「いいって訳じゃないけど……まぁ、昨日のミニテストは結構出来たんだ。しおりの教え方が上手いお陰で。」

揺れながら笑っていた。
そんな遼にこんどは素直に笑えた。

遼はブランコを左足だけで器用に止め、私と向き合った。
「しおりは……進学しねーの?」
「え?」
「こんなに勉強できるんだから、もったいなくね?」

そう言われれば、遼とキャンパスライフを送ってみたい気もする。だけど、
「やりたいことないし。お母さんに楽させてあげたいもん。私、仕事するようになったら自立したい。なんか、お母さんに彼もいるみたいだし。」
「えっ?ほんとかよ?あのお母さん?」
「ホントホント」

アハハと笑っていると、優しい瞳で見つめられた。

「そっか。じゃあ……俺は最短で教師にならなきゃな。そんで、しおりに楽させてやるよ。」
「え?」
「しおりがお母さんを楽させてあげるんだろ?だから、しおりは俺が楽させてやるからな。」

『幸せにしてやるからな』

そう聞こえた。




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