遠すぎる君
最後の時間
2月に入り、
私立の受験シーズンになった。
塾の短期講習もその時点で
一旦落ち着き、学校へいく日々が戻った。

あと何回この教室に来れるんだろう。
朝一、早めに自分の席に座る。

高校へ持ち上がりのクラスメイトたちは
バレンタインデーの準備に忙しい。

中学最後だもんね。

去年は義理チョコと友チョコとして
自作の棒付きチョコをいくつか配ったなぁ

その中には遼のも含まれていた。

今年は本命チョコと美幸への友チョコだけの予定だったのに、
やっぱり去年と同じか…

やるせない笑いがフッと出てくる。

最後だし凝ったものにするかな…
あ、お世話になった永沢くんにもあげなくちゃ。

そんなこと考えてると

遼が教室に入ってきた。
目が合う。

遼は一瞬気まずそうにしたけど
「おはよう」
と挨拶してくれた。

何ヵ月と目も合わせてくれなかったので
嬉しくって

思わず「っっ…おはよう!」

大きな声が出て、何人かビックリしてた。

遼も目を丸くしたけど、クシャッと笑い
斜め前の席に座った。

小さなことだけどすごく嬉しかった。

線は細いけどがっしりと筋肉のついた男の子の背中。

あと何回この背中を見ることが出来るんだろう。


机に置かれた遼の長い指を見て、
初めて手を繋いだ時を思い出してドキドキした。

思った以上に大きくて、
ゴツゴツしていて、温かくて。
緊張したなぁ。

いつかあの手は他の女の子に触れるんだろうか。

切なくなって、目をそらした。

でもこの先、遼に彼女が出来たとき
それを見なくて済むのなら
外部の高校に行くのも悪くない。

そう思うと今の状況に前向きになれる。

うん、きっと大丈夫。

なんにも間違ってなんかない。

卒業までを大事にしよう。
笑顔で挨拶できたんだから。

心の中でガッツポーズをしていたら
今度は美幸が投稿してきた。

「おはよ~
あ!しおり!」

「美幸、三日ぶり!」

嬉しそうに机に駆け寄ってくる。

「しばらくは登校できそう。」

「やったぁ~」

美幸も残り少ない私との時間を知っているから
すごく嬉しそう。

卒業まで1ヶ月。
できるだけ学校に来て
きっといい思い出にしよう。
そう思った。
< 33 / 136 >

この作品をシェア

pagetop