遠すぎる君
それぞれの新しい生活
俺は高校生になった。

エスカレーター式の青蘭は
少しの入学者を除いて
中学と同じメンバー。

学舎は違えどさほど新鮮さはない。

新鮮さはないが
先月までと全然違う。


しおりがいないという事。


そして松井。

今まで松井はしおりと行動を共にしていた。

しおりがいなくなった今
隣に要るのはたいていアイツ。

永沢だ。

入学式の次の日から一緒に登下校。

二人が付き合い始めたともっぱらの噂だが、
その噂を裏付けるように二人は仲良かった。

「俺が中田さんとイチャイチャするところを指くわえて見てろ」

と以前アイツに怒鳴られたが

俺は今、
永沢と松井がイチャイチャしてるところを
見ることになっている。


永沢はしおりが好きだったはず……

しおりにふられた……?
だから松井と……?

そう思うとホッとした。
そんなことを思う事すらおこがましいというのに。


ゴールデンウィークに突入前のある日、
松井と昇降口で会った。

俺に気づいて明らかに嫌な顔をした松井は
背中を向けて歩き出した。

「ちょっ…!待って!」

俺の言葉に首だけ向けて「なに?」と聞く。

取り付く島もない松井に怯みながら
心を落ち着けてもう一度声を発する。

「あ…っと……しおりは…受かったのか?」

松井の辛辣な視線にドキドキしながら答えを待つ。

「しおりは」

「…」

「…落ちたわ。就活中。」

「…!」

思いもかけない松井の冷ややかな言葉に
胸がギュッと締め付けられる。

驚愕している俺を松井はジーっと見つめている。

そしてフンッと聞こえたその後
「なわけないでしょ。あんたと違ってしおりは賢いんだから。」

「……え?」

「ちゃんと受かったわよ。
永沢くんだってしおりに協力してたんだから。」

「…受かった……?」

「東高校の1年やってる。」

そっか。よかった。
心の底からホッとした。

「あんたに心配される筋合いないよ。話終わり?永沢くん待ってるから。」

と冷たく言い放ち、踵を返して歩き出す。

「あ!ちょっ!おまえ…永沢と付き合ってんのか?」

クルッとこちらを向いた松井は少しだけ恥ずかしそうで、でも目は俺を睨んでいた。

「……そうだけど?」

やっぱりそうか。

「あいつ……しおりとは……」
「友達だけど?」

靴箱の影から靴を持って現れた永沢に遮られた。

「お待たせ、永沢くん」

嬉しそうに笑う松井に「待ってないよ」と返す永沢。

俺をちらっと見て
「何か言いたい?」

「お前」

「中田さんが好きだったんじゃないかって?」

「……」

「俺はずっと美幸を見てたんだけどね。
するとその横に、
彼氏に酷い扱いを受けて悲しそうな中田さんがいて。
偶然知った中田さんの外部受験に協力しながら
美幸との仲良くなるチャンスを待ってた。」

え?

「どこかの誰かさんと違って俺は
好きな子にはハッキリ言って、付き合ってもらえることになった。
もちろん、中田さんも知ってる。」

な?と松井に優しく笑いかける。

松井も嬉しそうに照れている。

「ボヤボヤして誰かに取られてもつまらないし。」

「誰も私なんて取らないって~」

完全にバカップル。


話題を変えたくなって

「しおりは元気にやってるのか?」

と聞いたら
二人に睨まれ

「いい加減にしてよ!」

松井に怒鳴られた。

「あんたの口からしおりの名前を聞くのが今更だっての!
しおりは今は東高のインテリでイケメン男子と仲良くやってんだから
あんたは馬鹿みたいにサッカーやってな!」

乱暴に靴を履き替えて昇降口を出ていった。

その後を慌てて追う永沢。
靴を履き替えて一言。

「ほんと今更だよ。美幸をこれ以上怒らせるなよ。」

一睨みして帰っていった。


俺はもうしおりを心配する資格もないってことか。

溜め息をついた時に
部活にいくのを忘れてるのを思いだし
慌てて部室へ向かった。

でもその日の部活はしおりの事ばっか考えてしまって
散々だった。











< 42 / 136 >

この作品をシェア

pagetop