ミルト


彼女の家に
親が帰ってくることはほとんどない。



むしろ、俺はそんな光景を見たことがない。



いつから毎日彼女の家に行くようになったのか
覚えてはいないけど、
昔からそうだ。









本人は
気にしてなさそうな雰囲気を作っているが
なんとなくわかる。




さっきもだけど
"母さん"という一言は彼女にとって
辛い言葉なのかもしれない。







俺はそんなことを考えながら
朝ごはんの支度をしていた。


その間、
姫喜は制服に着替え髪も真っ直ぐになっている。






どうせ、
頭を振っただけだと思うが。


とにかく
髪も制服もビシッとなっていた。






器用に車椅子を動かし、
リビングの机に頬杖をついて俺を見た。










「未来花…」







「ん?」









料理している最中なので
少し無口になっている自分がいる。









「未来花は

えろいね。」








「…はぁ?」







「…間違えた。

偉いね。」










完全に思考停止していた俺。


彼女は
照れるようにして笑っているが
こっちは笑えない。







動きを止めてしまった包丁を
上下に揺する。


俺は何事もなかったように
ネギを切った。






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