冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!


進藤は少し照れながら、頬を赤く染めていた。
その様子に、あの晩の事を思い出しているのかと想像したら、私まで恥ずかしくなってきた。
進藤と初めて結ばれた日。


しばらくすると、それぞれのマンションへたどり着くには分かれ道になる交差点まで来ていた。


「夏希さん、どうしますか?」

進藤は遠回しに自分のマンションに誘ってるのかもしれない。
そんな事を思ったが、気が付かないフリをする。



「帰る。」



「・・・はい。」

少しの沈黙。
それでも進藤が私の言葉に従い、私のマンションへと車を走らせた。


真面目すぎる性格に半分がっかりし、半分はホッとした。
今日はひとりでいたい、けれど、本当にひとりだったら、落ち込んでしまうかもしれない。


こんな時、強引にでも私を連れ去ってくれたら、素直に進藤の胸に飛び込めるのに。
自分でも支離滅裂なことを考えてる。


自宅マンションの前に着くと、進藤が車から降りて、エスコートするように車から降りる私の手を取った。



「たかが靴ズレだから、そこまでしなくても・・・」

進藤は少し笑って、そっと手を離した。



「ここで大丈夫ですか?」



「うん、今日はごめんね。ありがとう。」

と、荷物を肩にかけようとしたら、突然、進藤が抱きしめて来た。
自宅マンションの前だし、まだ人が通りかかってもおかしくない時間。
私は反射的に進藤から離れようとするけれど、進藤は更にきつく抱きしめる。



「お願いだから、じっとしててください。少しだけ・・・」

せっぱ詰まった進藤の声だけが、私の耳元に響く。
その時間は数秒だっただろう。
端から見たら一瞬と言う時間だったと思う。
けれど、私にはとても心地の良い、かけがえのない時間でもあった。


こんな気持ちの時に、進藤がそばにいてくれて本当によかった。
素直にそう思えた。


進藤がすっと離れたかと思うと、私の顔をちゃんと見もせず


「おやすみなさい。」

とだけ言って、車に乗り込み走り去って行った。
それが妙に淋しく感じるのは、私のわがままだろうか。




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