きっかけは誕生日
 無表情で返されて、ポカンとした。

 え。なに。そちらも若干重い気がするのは私だけ?

「でも……そう。付き合ったことが一度もないわけか……」

 しみじみ言われて、また顔を赤らめる。

「や。あの……ですね」

「いやぁ。そんなこと聞いたら帰したくなくなるね。どうしようか、やっぱりお持ち帰りしてもいい?」

「だ、だめです」

「そうだよね。そう言うと思ったけど……」

 私を見下ろし、金井さんは小さく微笑む。

「……どうやら、返事はもらえてるみたいだね?」

「わ、私で……いいんでしょうか?」

「今さらだよね。勝手に人のなかに居座っていながら」

「や。知りませんし、気づきもしませんでしたし、そんな事を言われても」

 困る……と、言いかけたら金井さんと目が合って。

 無言で頬に触れられて、どうしようか考えた、

「ここは目を瞑ってほしいかな?」

 そっと目を瞑ると、金井さんの唇が私の唇を塞いだ。

 夏の夜風に、微かなビールとレモンの柑橘系の香り。

 それから抱き締められて、シャツにまだ残るコーヒーの匂い。

 それごと抱き締め返したら、小さく笑い声がして、

「あまり、待てないと思うから、そのつもりで」

「…………」

 最低な気分で起きた誕生日。

 だけど、とてもハッピーな誕生日?

 顔を赤らめたままの私を見下ろして、やっぱり金井さんは小さく笑った。















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