サヨナラの向こう側
突然、慶の上着がバサッとかけられた。



慶の香り。


香水とかじゃなくて、男の人の香り。


「寒いだろ」


「ありがと、でも、慶が寒いんじゃない?」


「俺は、こうしてれば平気だから」



私を、後ろから上着越しに抱きしめた。




「美久、俺なら、今日みたいな涙は流させない。


絶対に裏切らないし、不安な想いもさせない。


俺は美久が好きだから」




そう言うと、私の肩をそっとつかんで、向かい合わせた。




「俺と、つきあってほしい。


一緒にいよう」




先生のことを、あきらめなきゃいけないと思い知った、今日だから。


とてもじゃないけど、ひとりでいる自信がもてなくて。



「・・・うん」



と、返事をした。



「つきあいはじめた、しるし」



慶の唇が、私の唇に、そっとそっと、重なった。



ふれるだけの、優しい優しい、キスだった。








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