イジワル上司と秘密恋愛


——やめて。好きでもないのに、そんなに優しく私の身体に触れないで。

自分の意思とは関係なく高鳴ってしまう胸が苦しくて、ついに眦から涙が零れてしまった。

彼はそれを当たり前のように自分の舌で舐め取る。まるで私の哀しみまで自分のものにするように。


「嫌い……嫌い……綾部さんなんか、大ッ嫌い……」

「俺は大好きだよ」


憐れに泣き続ける私に追い討ちを掛ける怜悧な嘘。紡がれる言葉が甘ければ甘いほど心の奥まで染みて行き、深い場所に傷を穿つ。

——大嫌い、あなたなんか。


綾部淳耶(あやべじゅんや)さん。八つ年上で私の上司。いつも冷静で、誰にでも優しくて。

そして、私を弄ぶ誰よりイジワルな人。


 
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