急に女扱いされても困る
「虎高のマネージャー兼助っ人の渡瀬明です。先輩たちと一緒に練習したい気持ちも分からなくはないけど、今回は互いに今年度初めてということで、1年だけの練習をします。文句はうちのコーチに言ってください。」

うちの1年はともかく、時雨坂の人たちは先輩たちと練習できると思っていたのに出てきたのはちっこいマネージャーだったからか戸惑いやら落胆やら、そんな表情を浮かべた。うん、キツい練習を望む志はよし。

「…もしかして、最初からキツいのはまだ弱っちい俺らにはよくないとか、そういう考え?」

どこか苛立ったような低い声が聞こえ、そちらを見上げれば表情からも苛立っていることがわかる奴がいた。時雨坂の1年。

「言っただろ。文句はコーチに言ってって。まあでも僕個人としてはただ親睦を深めろ的な意味がある気もするけどね。」

固そうな髪質のツンツンとした黒髪、じとりと睨んでくるつり目、そして他の1年とは明かに違うガタイのいい体。めんどくさそうだなあなんて頭の隅で考える。

「親睦なんてもん必要ないだろ。何で他校どうしの親睦を深める必要があんだよ。」

こういうやつを黙らせるには力しかないことを、僕は経験上理解していた。

「そんなに納得できないなら、僕と勝負しよ。お前が勝ったら僕からコーチに頼んでお前だけ試合前の先輩たちと一緒に練習させる。」

試合前、というのを強調してみたが相手には残念ながら伝わらなかった。いや、興味ないだけか。

「代わりに僕が勝ったら大人しく練習に参加してね。」

このときの僕は知るよしもなかったんだ。
このゲームがすべての始まりだったなんて。
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