寵愛の姫 Ⅰ










だって、




何かを聞いてしまったら、私も自分の事を話さなくてはならなくなる。






…………そんなのは嫌だから。







知られたくない。




私の事は。







だから、付かず離れずなこの距離感が丁度良い。






そうすれば、きっと穏やかなこの時間は続いていく。








…………そう、思っても良いよね……?







側にある人の温もりが、こんなにも愛おしいなんて知らなかった。







「……。」





少しだけ頬を緩ませた私の長い髪を、夜風がさらりと靡かせる。






そんな私を、天野さんが目を細めて見ていた事を、





ーーー私は気付かなかった。



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