Dilemma
第9刻・花ノ君宵篇 後編
「何?高蔵がマブダチと消えただと?」


青い空の下、里美は金髪の長い髪を揺らしながら眉を鋭くひそめた。


愛梨と棗はこくこくと頷く。

時刻は10時半。普通ならば教室で授業を受けている時間だが、たまたま自習だったので二人はこっそり抜け出してきたのだ。

里美がよく訪れるという屋上に行く途中先生と鉢合わせになった。だが、棗が即座にアッパーカットを食らわせ、その上先生の耳元でなにやら呪文のようなものぼそぼそ呟く。あまりの恐怖に先生もガタガタと震えだし、それを見ていた愛梨もガタガタ震えていたとかいなかったとか。

途中で目が合ったとき、棗が『次はお前がこうなる番だ…』みたいな顔をしていて、愛梨は更なる恐怖を味わったとさ。


「ところで奥口先輩はやっぱりサボりですか?」


「やっぱりってどういう意味だ、失礼な。今、美術の授業で『自由な場所で風景画を描きましょう』って課題が出てんだ。」


「…あはは!そうですよねー!やっぱりそうですよねー!あはははは…」

愛梨は心の中で胸を撫で下ろした。


「ちょっと失礼。」

棗は里美の制作中の絵を覗き込んだ。

沈黙が流れる。


「…うふふなかなかその…個性的というか、マニアックな絵ですねぇ…」


「里美は絵描くの下手だからねぇ」


「あ、御崎先輩」


入り口から御崎が現れた。手には里美同様、画用紙と絵の具セットが握られている。


「どうだ?絵の調子は。」

「うーん悪くないね。それよりもさっきのメールの話って本当?突然びっくりしたよ。」



愛梨と棗はもう一度御崎にさっきの話をした。その間里美は絵の制作を進めていた。


「…若宮…ねぇ」


「あぁ…あたしも同じことを考えていた。」

絵を描いていた里美が顔を上げる。


「あの…一応確認なんですが。恐らく、私たちと先輩たちは全く同じことを考えているんじゃないかなぁ…なんて」


先輩二人は同時に深い溜め息を吐いた。


「若洲鹿組はね、歴代ボスの名字の頭文字から出来てるんだ。洲は洲野、鹿は鹿山…里美、今までに若宮って名を聞いたことは?」


「…フン。今にも過去にもたった一人だけだ、その名を聞いたのはな。恐らく若洲鹿組の現ボスだ、若宮というやつは。」
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