麗雪神話~幻の水辺の告白~
シルフェはボリスの目を見つめて、じっと待った。そうしていれば話してくれるような気がした。

しばしの沈黙ののち、ボリスは力なく首を横に振って言った。

「ああ、だめだな、俺は…弱い」

その眉間から、苦悩が見て取れる。

シルフェは、できるだけはっきりとした発音で言葉を返した。

「あなたは、弱くなんてないわ」

「………」

ボリスは苦悩の表情のまま、唇を噛んで黙り込んでいる。

シルフェは、ボリスの悩みが「弱いこと」なら、それは誤りだと思う。だから言葉を重ねた。

「弱くない。守るべきものをちゃんとわかっている人だから。愛することを、知っている人だから」

シルフェの言葉が胸に染みたのかはわからない。

けれどボリスが、シルフェをまっすぐ見つめ返してきた。

「こんなに悩み、迷っても?」

「ええ。人間なんだから。ううん、神様だって、悩んで、迷うんだから。それでいいのよ。むしろ、それこそが強さを生む」

「シルフェ…」

「私はそんなボリスでも好きよ?」

さらりとそう告げてしまってから、はたと気が付いた。

(もしかして今私、爆弾発言を?)

変な意味ではない。

あくまでも友人としてだ。他に何がある。

だからなるべく平然としていようと思ったのに、ボリスがゆでだこのように真っ赤になるものだから、こっちまで恥ずかしくなってきた。

二人は顔を赤らめ、しばらくお互いの顔を見られなかった。
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