麗雪神話~幻の水辺の告白~
ディセル達が弓矢などで狙われないよう、そして彼らの中で「侵入者」のイメージが自分だけになるよう、なるべく大勢の兵士を引き付けて、シルフェは宮殿内をひた走った。

精神的には余裕があった。

外にさえ出られれば、シルフェは空を飛んで逃げられるからだ。

だが勝手の分からぬ宮殿の中で、シルフェは迷いそうになる。驚くほど人が通れるような窓も少ない。

放たれた矢を、風の力で押し返すと、兵たちがざわめいた。

「なんだこの風…!」

「こいつ、化け物か…!」

シルフェはめまぐるしく頭を回転させていた。

(このつくりだと、…このあたりの部屋には必ず、バルコニーがあるはず)

シルフェはある部屋に飛び込み、バルコニーを探す。

「…あった!」

急いで鍵を開け、外に飛び出した。

ぞろぞろと後をついてきた兵たちを振り返り、シルフェはにっこりとほほ笑む。

「それじゃあまたね! 兵士さんたち!」

ふわりと風を動かし、シルフェは空の人となった。

街の方向へ逃げるわけにはいかなかった。家探しされては廃屋の拠点がみつかってしまうおそれがある。だからわざと兵たちに見えるように、濠を越え城壁を越え、宮殿の背後に広がるジャングルへと飛んだ。

「ジャングルに逃げたぞ!」

「急いで追え!」

(これで、セレイアたちの方に、あまり追っ手がかからないといいけど)

シルフェは空の上からジャングルに着陸できそうな開けた場所を探しながら、陽動作戦をしてくれたサラマスの安否を思った。

(無事でいて、サラマス)
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