願いは叶う
私が家に帰り、一つしかない部屋に入っていくと、母はいつも決まって内職の仕事をしていた。


外であまり働けない母は、いつも時間を無駄にせず、部屋の中で少しばかりのお金を稼いでいた。


私は、そんな母の小さな背中を見つめながら思った。


母がこの仕事を何時間すれば、桜井由美の塾の月謝になるのかしら……。


私は母の隣りに座り、母に話しかけた。


「お母さん、お母さんは、願いは叶うって私に教えてくれたでしょ」


「ええ、そうね」


「本当に、願いって叶うのかしら?」


「私は、叶うと思うわ」


「だったら、お母さんの願いって何?」


「小夜子が、毎日、元気でいることかしら」


「お母さん、他にはないの?」


「毎日、ちゃんと、仕事がしたいわ」


「他には?」


私は、知らず知らずのうちに声を荒げていた。
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