サマーノウト
サマーノウト



愛犬とふたりぼっちで、広い砂浜を裸足のまま歩いていく。



青い海が穏やかに波を打ち、下部を水につけた夕陽が街を朱に照らしている。



その様は、さながら緻密に描かれた絵画のようで。



あたしは涼風吹き抜けるこの時間に、愛犬のマリンと散歩をするのが好きだった。



それは春であったり、夏であったり、秋であったり、冬であったり。



この海は、四季折々の美しい景色をあたしに見せてくれる。



その日、波打ち際の砂浜に足跡をつけながら、あたしはぼんやりと歩いていた。



ときどき、ゴールデンレトリーバーのマリンに手を引っ張られながら。



もうすぐ、夕陽が沈むな。



そう考えたあたしは、ふと足を止め顔を上げた。



何か、音がする。



心が安らぐ音。



なんだか妙に懐かしくて、優しい音が。



微かに耳に届くそれは、聞いたこともない滑らかな音色だった。



凪のような、それは。



「…ヴァイオリン?」



ヴァイオリンの音が、海に響く。



音は徐々に鮮明になっていき、夕暮れ時の砂浜が、澄んだ音色で染められていく。



目を閉じて、あたしは誰かが奏でる美麗な曲に身を浸した。



< 1 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop