十一ミス研推理録2 ~口無し~
「人間ってさ、語りたくない過去や秘め事を持っているものなんだよな。今回の口無し事件では、そんなことを考えさせられたよ」
和田と綾花の母の繋がりを強めたのも、最後の真実を語る時間があったからだ。
そして、事件の真相を語ることで、真犯人の存在も発覚した。
もし和田が綾花の母を庇い『口無し』であり続けていたら。
「人って、全員が『口無し』なのかもしれないね」
裕貴が締めるように続いた。
前ではワックスが黙々と肉を焼いては食べている。勘定は大丈夫なのだろうか。
十一朗は心配になって文目が置いていった袋を取った。お札にしては少し重い気がする。中身を見ると、お札だけではなく手紙が入っていた。
ワックスも見たはずなのだが、手紙は興味の対象には入らなかったのだろう。手紙を取り出して開くと、一文だけ書かれていた。
『少年よ大志を抱け』
ありきたりの文章を書いたなと、少し呆れてしまったが貫野なりの気遣いなのだろう。
「あの人らしいと言ったららしいけど……わざわざ紙に書くことかよ」
「プラマイ、貫野さん相手に正直になればいいのに。いつも喧嘩ばっかり」
裕貴が思いがけない発言をしてくる。
秘め事って、貫野さん相手に対してじゃないんだけどな。十一朗は思わず息を吐いた。
会話をしながらの食事で徐々に腹もいっぱいになってくる。携帯を取り出して時間を見ると、九時を過ぎていた。
ワックスと裕貴も携帯を取り出してメールの確認をしている。不意にワックスが妙な笑みを浮かべた。
「ワックス、メールになにかあったのか?」
聞いた途端、ワックスが首を横に振る。様子がおかしい。
「ワックスね。あれから頻繁に八木さんとメール交換しているんだよ」
裕貴の告白で事件が発覚した。こっちも『口無し』だったか。
思えば、綾花の夢は刑事と知っていることが不思議だったのだ。裏の行動はミス研部内でもあったらしく、それがある程度、事件を進展させたのかもしれないなと感じた。
「それ、プラマイに言うことかよ。ライバルなのかもしれないのにさ!」
慌てて叫んだワックスに、裕貴と同じく十一朗も唖然としてしまう。
「その心配はないんじゃない。プラマイ、その気ないし。それに八木さん、ワックスのこと、いい人ですねって言ってたよ」
どうやら裕貴は『口無し』ではないらしい。暴露しすぎていて幼馴染みとして怖すぎる。
裕貴には内緒話はしないどこうと、十一朗は改めて固く誓った。
帰り支度をして、十一朗が代表して勘定した。お釣りがいくらか残ったが、これは今いない綾花にプレゼントすることで使おうと思う。
彼女が一番、ミス研部で苦しい想いをして事件にあたっていたはずなのだ。
その時、携帯に反応があった。メール着信だ。相手を見ると綾花の携帯だった。
『今日はありがとうございました。ミス研部の一員で私は幸せです。明日も行きますので、よろしくお願いします』
先程のワックスのメールの直後に打ちこんだものだろう。裕貴に教わって身につけた打ち込みを披露して、綾花に送信した。
「ねえ、今の八木さんから? なんてメッセージで、なんて送ったの?」
「なんで裕貴に教えなきゃいけないんだよ。別に隠すこともないし見せてもいいけどさ」
裕貴に見せると「ふーん」と言って、今度は興味がなさそうな返事をする。
何が知りたかったというのだろうか。
最近の裕貴の言動は首を傾げる部分がある。変にワックスと綾花を繋げようとするし、機嫌が悪くなったかと思えば大和撫子と呼べと言ったり、訳がわからない。
「三島さん、プラマイ相手に正直になればいいのに。いつも喧嘩ばっかり」
突然、ワックスが先程の裕貴の真似をしながら、妙なことを言った。鳥肌が立ちかけて、身震いしてしまう。
馬鹿騒ぎをしながら追い駆けっこをはじめた二人を見て、十一朗は思わず息を吐いてしまった。
見ると携帯には他のメールがあった。母からだ。
『お父さんに全部話を聞いたわ。ちゃんとみんなを送って、気をつけて帰ってきなさいね』
それは少し大人になった子供に対してのメッセージだ。
進路がはっきりしたことで、母も安心したのだろう。
学生生活も残りわずか。ミス研部から離れなくてはいけない時は必ずやってくる。
それでもミス研部員は家族同然の仲間だ。互いの心を大切に認識し合いながら、仲良くやっていける自信がある。
空を見ると、無数の星が悩んでいた時とは違うメッセージを語りかけてきた。
遠くでは明日の部室の掃除係をかけて、競争がはじまったらしい。十一朗は二人に負けまいと、思いっきり地面を蹴って駆けていた。
和田と綾花の母の繋がりを強めたのも、最後の真実を語る時間があったからだ。
そして、事件の真相を語ることで、真犯人の存在も発覚した。
もし和田が綾花の母を庇い『口無し』であり続けていたら。
「人って、全員が『口無し』なのかもしれないね」
裕貴が締めるように続いた。
前ではワックスが黙々と肉を焼いては食べている。勘定は大丈夫なのだろうか。
十一朗は心配になって文目が置いていった袋を取った。お札にしては少し重い気がする。中身を見ると、お札だけではなく手紙が入っていた。
ワックスも見たはずなのだが、手紙は興味の対象には入らなかったのだろう。手紙を取り出して開くと、一文だけ書かれていた。
『少年よ大志を抱け』
ありきたりの文章を書いたなと、少し呆れてしまったが貫野なりの気遣いなのだろう。
「あの人らしいと言ったららしいけど……わざわざ紙に書くことかよ」
「プラマイ、貫野さん相手に正直になればいいのに。いつも喧嘩ばっかり」
裕貴が思いがけない発言をしてくる。
秘め事って、貫野さん相手に対してじゃないんだけどな。十一朗は思わず息を吐いた。
会話をしながらの食事で徐々に腹もいっぱいになってくる。携帯を取り出して時間を見ると、九時を過ぎていた。
ワックスと裕貴も携帯を取り出してメールの確認をしている。不意にワックスが妙な笑みを浮かべた。
「ワックス、メールになにかあったのか?」
聞いた途端、ワックスが首を横に振る。様子がおかしい。
「ワックスね。あれから頻繁に八木さんとメール交換しているんだよ」
裕貴の告白で事件が発覚した。こっちも『口無し』だったか。
思えば、綾花の夢は刑事と知っていることが不思議だったのだ。裏の行動はミス研部内でもあったらしく、それがある程度、事件を進展させたのかもしれないなと感じた。
「それ、プラマイに言うことかよ。ライバルなのかもしれないのにさ!」
慌てて叫んだワックスに、裕貴と同じく十一朗も唖然としてしまう。
「その心配はないんじゃない。プラマイ、その気ないし。それに八木さん、ワックスのこと、いい人ですねって言ってたよ」
どうやら裕貴は『口無し』ではないらしい。暴露しすぎていて幼馴染みとして怖すぎる。
裕貴には内緒話はしないどこうと、十一朗は改めて固く誓った。
帰り支度をして、十一朗が代表して勘定した。お釣りがいくらか残ったが、これは今いない綾花にプレゼントすることで使おうと思う。
彼女が一番、ミス研部で苦しい想いをして事件にあたっていたはずなのだ。
その時、携帯に反応があった。メール着信だ。相手を見ると綾花の携帯だった。
『今日はありがとうございました。ミス研部の一員で私は幸せです。明日も行きますので、よろしくお願いします』
先程のワックスのメールの直後に打ちこんだものだろう。裕貴に教わって身につけた打ち込みを披露して、綾花に送信した。
「ねえ、今の八木さんから? なんてメッセージで、なんて送ったの?」
「なんで裕貴に教えなきゃいけないんだよ。別に隠すこともないし見せてもいいけどさ」
裕貴に見せると「ふーん」と言って、今度は興味がなさそうな返事をする。
何が知りたかったというのだろうか。
最近の裕貴の言動は首を傾げる部分がある。変にワックスと綾花を繋げようとするし、機嫌が悪くなったかと思えば大和撫子と呼べと言ったり、訳がわからない。
「三島さん、プラマイ相手に正直になればいいのに。いつも喧嘩ばっかり」
突然、ワックスが先程の裕貴の真似をしながら、妙なことを言った。鳥肌が立ちかけて、身震いしてしまう。
馬鹿騒ぎをしながら追い駆けっこをはじめた二人を見て、十一朗は思わず息を吐いてしまった。
見ると携帯には他のメールがあった。母からだ。
『お父さんに全部話を聞いたわ。ちゃんとみんなを送って、気をつけて帰ってきなさいね』
それは少し大人になった子供に対してのメッセージだ。
進路がはっきりしたことで、母も安心したのだろう。
学生生活も残りわずか。ミス研部から離れなくてはいけない時は必ずやってくる。
それでもミス研部員は家族同然の仲間だ。互いの心を大切に認識し合いながら、仲良くやっていける自信がある。
空を見ると、無数の星が悩んでいた時とは違うメッセージを語りかけてきた。
遠くでは明日の部室の掃除係をかけて、競争がはじまったらしい。十一朗は二人に負けまいと、思いっきり地面を蹴って駆けていた。


