優歌-gental song-





それから優歌さんは「もう帰るね」と言って屋上を後にした。


声が少し滲んでいて、引き留めようとも思ったけれど。


でも、ぼくにはできなかった。


遠ざかる優歌さんの白い腕を、掴むことはできなかった。





1人、灰色の空の下。


今にも降り出しそうな空を見上げていると、今になって視界が滲んできた。


何度も滲む涙を拭っては歌った。


声は震え、音程も不安定で、とても素敵な歌声ではないのは自分でも重々分かっている。


それでも止められなかった。


止めようとも思わなかった。


とめどなく流れ落ちる涙と共に、優歌さんの泣き顔が頭を過る。


声を押し殺して泣いていた、優歌さんのか細い泣き声が耳にこびりついて離れない。



…優歌さん。


きみは今、どこにいるのだろう。


学校、教室、それとも家の中だろうか。


ぼくは今、この学校の屋上で歌っているんだ。


今にも降り出しそうな曇天の中、歌っているんだ。


もし、きみが一人膝を抱えてあいつのことを想って泣いているのなら。



忘れろ、とも


泣くな、とも


言わないけど。



どうか耳を澄ませてほしい。


ぼくの歌を、聞いてほしい。


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