空っぽのイヤホン(仮)
「そういえば、私五十嵐のYシャツ持ってきたのに教室置いてきた。」

「ああ、捨ててよかったのに。」

五十嵐のYシャツは
甘ったるいお菓子みたいな匂いがして、

洗うのをためらってしまった。

「ちゃんと洗濯したから。
今持ってくる?」

「うーん、いいや。それよりさあ…」

五十嵐が突然、私の腕を強く引いた。

「もうちょっとここにいて。」

ぐら、と傾いた身体に思わず「転ぶ!」と思ったけれど

五十嵐の手がしっかりと私の手首を捕まえていて、大丈夫だった。

「俺今、すっごいさみしー…。」

五十嵐の声は小さくて掠れてて、うまく聞き取れない。

五十嵐は正面から
こてん、というように私の肩におでこをのせている。

私は戸惑いながらも
空いている方の手で、そっと彼の髪を撫でた。
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