冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

 先程までの射すくめるような視線はもうなかった。
 かわりに労るようなやわらかい目でアシュレはリューリの
 腕をみている。

 リューリは体の強ばりが溶けていくように感じた。

 アシュレに握られた手首も、視線をむけられている腕も熱い。

 アシュレの指がやさしく動くたび、体の奥底からざわざわする
 気配がわきあがってきて、体の中に熱が籠っていくようだ。

 
 (なぜそんなふうにやさしくするの?
  そんなふうにやさしくされたら、、、。)


 体の中にたまった熱が、リューリの中の何かを溶かしていく。

 思えば、リューリがアシュレを拒絶したから、アシュレはリューリを
 抱こうとはしなくなった。

 もし、私が望めば、、、、。

 この得体の知れない熱に身を委ねてしまえたら、、、。



   「陛下、、、。」

   「なんだ。」

   「、、、私が、、、、もし、私が望めば、、、、。」



 そこまで言って、リューリははっと我にかえった。

 私、今なにを言おうとした?



   「何を望むのだ?」



 リューリは、アシュレにとられていた腕を、慌てて引っ込めた。



   「いえ、、、何でもありません。」



 リューリは、すばやく寝台から降りると、扉までを駆けた。



   「まて!」



 アシュレが呼び止めたが、リューリは振り返らなかった。
< 63 / 159 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop