キスより甘くささやいて
第7章 春

再び、失恋記念日

明日から4月だ。鎌倉の町は桜が満開だ。
今日はgâteauが最終日だった。
たくさんのお客様がやって来て、gâteauの閉店を惜しんでくれた。
ケーキの箱に添えられたカードには
オーナーのお礼の言葉と、
颯太の、また、皆さんにお会いできる日まで。
という挨拶が書かれている。
颯太がフランスに行く事になっているのは、結構、噂になっていて、
どのお客様も好意的に声をかけてくれていた。

ティールームに勤める啓介君という若者は、製菓学校に通い、
パティシエを目指すそうだ。
もう1人の若者は他の飲食店に勤める事になっている。
私は都内の療養型の病院に勤める事になっているが、
颯太がフランスに発ってから、勤められるように調整した。
(看護師はいつでも人出不足なので、そういう融通はききやすい)
みんなと、握手してから、別れた。
これから、それぞれの道を歩いていく。
オーナーと颯太は名残惜しそうだ。
また、必ず会おう。と言い合っている。
きっと、オーナーは自分の息子を旅立たせる気持ちで。
颯太は、ここで、オーナーに出会えた事に感謝して。


帰り道、
遠回りして、鎌倉山の桜のアーチの下を車で通る。
道を覆うように咲き誇る美しい桜の花。

満開の桜は言葉を失うほどに美しい。
車を少しだけ道路に止め、
ふたりで手を繋いで、仰ぎ見る。

颯太と見たこの桜を、きっと、一生忘れない。
そう思った。
< 121 / 146 >

この作品をシェア

pagetop