Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 一縷の望みも決定的に突き壊されて、遼太郎は哀しみが爆発しそうになった。渋面を作り、奥歯を噛みしめ唇を引き結ぶ。

 そんな遼太郎の顔を、みのりは強い眼差しで見上げて、いつもの励ましの言葉で促した。


「さあ、回れ右して、胸を張って一歩踏み出して!あなたの進む道は向こう側。私へは向かってないの。振り返っちゃダメよ。」


 今まで通り、遼太郎の背中を押してくれる力強い言葉だった。
 目の奥が熱くなって、遼太郎は歯を噛みしめたままゴクリと唾を呑み込んだ。


 そして、みのりはいつものように遼太郎の心を切なく震わせる微笑で、最後の一言を投げかける。


「頑張ってね、『…狩野くん…』。」


――…狩野くん…。


 遼太郎は心の中で反復した。もうその可憐な唇で、『遼ちゃん』と呼んでくれることはなかった。


 これ以上、抗うことはできず促されるまま、遼太郎は自転車の向きを変えた。無理やりに意を決して、橋の方へと自転車のペダルをこぎ始める。

 顎が震えて、涙が込み上げてくる。
 それを打ち消すように、遼太郎はペダルをこぐ足に力を込め、全速力で自転車を走らせた。

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