あの日のきみを今も憶えている
「俺、美月がどんな姿でもいい。美月の芯みたいな、そういう大事なところが好きなんだ」


園田くんは、言葉を選びながらゆっくりと話す。
そろそろと、気持ちを吐き出す。
破裂しそうな風船から、そっと空気を放つように。

園田くんはきっと、ずっと思いをため込んでいたのだろう。


「美月が幽霊であっても、そんなことで想いは変わらない。まだ傍にいてくれるってだけで、ありがてえって思う」

「……うん」

「でもさ、俺、時々すげえ不安になるんだ。想いが薄れるかも、とかそんなんじゃなくて。もっと、別のところで」

「うん」

「話をしていたら美月だって分かる。ちゃんと、感じられる。そこに美月がいるって思うだけで嬉しい。でも、」


うん、と相槌を打ちながら、園田くんの横顔をみる。
瞳が不安げに揺れていた。


「でも、ふっと考えてしまうんだ。美月はまたいなくなってしまうかもしれない。
魂だけの、俺には見えない美月が、俺の前からいなくなるのはきっと、簡単だろ。
そうしたら、堪らなく怖いんだ。また置いていかれるって、取り残されるって、不安になるんだ」


園田くんの握った拳が、小さく震えている。声も、掠れていた。


「すげえ、怖くなるんだ」


最後の空気が、外にこぼれ出た。
彼が、心の奥底に沈めていた、思い。

私はもう、相槌を打つこともできない。

園田くんにもし美月ちゃんが見えていたら、声が聴けていたら。
そしたら、その不安は解消されただろうか。

いや、きっと、やっぱり同じように不安になっただろう。
だって、彼女には触れない。触れあえない。

美月ちゃんは、どうしても、死んでしまっているのだから。
抗いようのない『死』を、彼女はもう迎えてしまっているのだから。

見ないように、考えないようにしていたけれど、それは逃れようのない事実で。
私たちと美月ちゃんの間には、越えられない深い溝が横たわっている。


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