あの日のきみを今も憶えている
クリ高の食堂は、広くてメニューが豊富である。
しかも、どれも美味しい。

私のお気に入りは、厚切りベーコンがたっぷり入ったカルボナーラだ。
このカルボナーラ、高校の食堂で出すにはちょっともったいないくらいの本格派な味。
しかも安い。
サラダが付いて、ワンコイン。最高の二文字に尽きる。

そんな食堂の片隅の席に陣取った私であるが、目の前にあるものは絶品カルボナーラではなく、私お手製のお弁当であった。
いや、正確に言えば、私が美月ちゃんの指示の元に作った、お弁当だ。


「おお、今日もすっげえ美味そう! 陽鶴ちゃんたち、ありがとう」


私の向かい側に座った穂積くんが嬉しそうに言った。


「ありがとな、二人とも」


穂積くんの隣に座った園田くんも言う。


「いえいえ。ではどうぞ、お召し上がり下さい。美月ちゃんも、いっぱい食べてねって言ってるよ」


私がそう言うと、生粋の体育会系二人は大量のお弁当を胃に収めるべく、箸を握ったのだった。


「美味い! やっぱこの卵焼き、最高!」

「あー、美月の味付けだ。うめえ」


自分の作った物をがつがつと食べてもらえるのは、まあ楽しい。
どんどん食べなさいよ、と妙に大らかな気持ちになる。

そんな私の目の下には、ちょっぴりクマができている。

というのも、ここ数日私は朝の五時前から起きて三人分のお弁当を作っているのだった。

自分一人の分でも面倒……いやいや手間がかかるというのに、男子高校生二人の分までもとくれば、それはもう時間が掛かる。

大体私は、料理があまり得意じゃないのだ。
今まで、休日のお昼ごはんに焼きそばやチャーハンを作る程度の経験しかない。
要領が悪く、作業の一々に時間をとってしまう。

対して美月ちゃんは、小学生の頃から包丁を握っていたというお料理好きで、毎日園田くんのお弁当を作ってあげていたそうだ。
試しにレパートリーを聞いてみたら、凄い数だった。
お菓子作りも好きらしい。女子力という名の戦闘力、高すぎだろ。

その美月ちゃんの丁寧な指導によって、最下級戦士の私はどうにかお弁当を作り上げているわけだ。


「ほらほら、ヒィも食べて。じゃないと、ヒィの食べる分が無くなっちゃうよ!」

「あー、うん」


私の横の椅子に座っている美月ちゃんに促されて、私はのろのろと自分のお箸をとった。


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