桜の花びらの記憶
 
 一瞬で暗闇に突き落とされた感じがした。

 笑え私。

 気付かれるな。

 出てくるな涙。

 私は妹。

 お兄ちゃんの妹。

 笑え。

 笑え。

 私たちの降りる駅の一つ前で降りて行った彼女。

 扉が閉まっても、電車が動いても、いつまでもホームを見送るお兄ちゃん。

 笑え、私。

 その後家まで、お兄ちゃんの話は一つも頭に入らなかった。

 へぇ~」「そうなんだ~」と、適当に相槌を打って無理に作る笑顔。

「じゃ、また明日な」

「うん、また明日」

 笑顔で手をふる私。

 お兄ちゃんの家の玄関の扉が閉まった瞬間、涙があふれ出した。
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