桜の花びらの記憶

 どんなに辛くても、一緒に満員電車に乗るこの時間だけは捨てられなかった。

 お兄ちゃんが私のことを妹としてしか思っていない。

 それは分かっていても、この時間だけはお兄ちゃんに大事にされていると思った。

 お兄ちゃんを一人占め出来た。

 そのためになら妹に徹することができた。

 私は妹。

 お兄ちゃんの妹。

 自分に言い聞かせた。

 自分の気持ちをお兄ちゃんに知られてはいけない。

 知られれば、きっとこの関係が壊れてしまう。

 それだけは嫌だった。

 二学期も終わり、冬休み。

 高三のお兄ちゃんは、毎日補習に自動車の教習所にと忙しそうで、なかなか会えなかった。

 それでもきっとクリスマスは、あの彼女と一緒に過ごすんだろう。
< 19 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop