紫の月が浮かぶ夜
お坊様が私に下さった名前。


「貴女は美しく気高く気品に溢れる女性です。  どんなにけなされ蔑まれ落ちぶれようともそれは、変わることはありません。どうぞそれをお忘れなく。」

「は、はぁ。」

初めてそんなことを言われた。

「では貴女の名は今日より
  ‘‘紫月’’といたしましょう。」

「…………紫月。」

「はい。紫月です。良い名でしょう?」

確かに良い響きだ。

「えぇ。今日から私………いいえ、俺は紫月として生きていこう。」

お坊様は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑い

「困ったことがあればいつでも来なさい。
私は、崇閹(シュウエン)。貴女の見方です。」

「はい、ありがとうございます崇閹和尚。
ところで、崇閹和尚。俺はそんなに"月"
が似合いますか?」

「?えぇ。よくお似合いですよ。その美しい黒髪も漆黒の瞳も。白い肌によく映える
唇。どれも麗しい月を思わせます。」

「そうですか?俺は自分の事が余り好きではないので…………。母上がくれた名もまた
月 がついていたのです。」

「そうですか。貴方の母上も貴方のことをよく分かっていたのだと思いますよ。」

「深月といったんです。深い月とかいて
深月。母の名にも深いという字がありました。」


「そうですか。…………そのような大切な名を捨てても良かったのですか?」

「はい。俺は全てを捨てるので。崇閹和尚がつけてくれた名にも月という字があります。それだけで母上の存在を近くに感じれるので……」

少しだけはにかんで笑った。

「そうですか。……………それは何よりです。

それで、今日はもう少しここで休んでいきますか?それともすぐに行かれますか?」



和尚が優しい口調で聞いてきたので私は、素直に答えた。

「もう少しだけいさせてもらってもよろしいでょうか。それと厚かましいのですが
食べ物を少々分けていただけないでしょうか?」

「食べ物を。そうでしたかでは、少し早いですが朝食といたしましょうか。」

崇閹和尚にいわれ、私はやっと朝食にありつけた。

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