うちの嫁
花嫁修行という名の


お袋の味。

どこの家庭にもあるものでしょう、そのお宅のお味というものが。味付けはもちろん、お椀や卓袱台、ぬか床一つとっても、家に味が出るように食卓にも色が出るというもの。

赤だし、白だし、合わせ味噌。

こうやって娘に料理を仕込み、一つまた家庭が出来上がる。大きな門をくぐって、その先のまた門をくぐり、お嫁さんなら歯痒さも伴ってくるのかしら?

ああでもない、こうでもないと、湯気が立ち昇る中での主人には立ち入らせない女の園を作り上げる、いつも夢見ておりました。

「じゃ、お米を研ぎましょうか」

私はあまり大きい声は出しません。犬の遠吠えでさえ身が竦むくらい。でも猿を呼び寄せねばなりません。

「お米、研ぎますよ」

しっかり力強く。

まるで米の研ぎ方のようだと思ったが、それでもうちの嫁は振り向きもしない。

冷蔵庫の中に顔を突っ込み、代わりに食べカスがどんどんどんどん、不意に___チンパンジーがこちらを振り返りました。

その手に、ビール瓶が握られている。

私は首を振りました。ダメよ、と。

すると、嫁は地団駄を踏むのです。今にも床が割れんばかりに。それでも私は首を振ります、上下関係上下関係と唱えながら。どちらが上で、どちらが下という問題ではなく、今はお米を研がなくては。

わざと大きな音を立ててビール瓶を置くのです。

しばらくにらみ合いが続き、こうやるのよとお米を研ぎました。珍しいのか、釜に顔を突っ込みお水を飲みだすので、しばらく放っておきました。

研ぎ汁は大根を炊く時に使うのよ。

私がそう言いますと、ワンピースのお嬢さんは破顔して私を褒めそやしますが、うちの嫁は研ぐと同時に米を引っ掴み、それが不味いと知ると釜ごとぶちまけました。

床に這いつくばって片付ける私のそばで、頭から釜を被ってご機嫌でございます。


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