30分の待ち時間







「ねぇスズ。
何か暇潰しのモノとか…あるの?」


「ないよ。

本は読み終えちゃったし、勉強道具は学校だし、スマホは充電切れだし」


「おっ偶然!
俺も全く同じ境遇なんだよね!」


「そうなの?」


「そう。
暇すぎて暇すぎて…。
こんな駅で降りた過去の俺を殴りたくなってくるほど暇」


「わかるわかる!」


「まぁこんな駅でも、利用する人はちらほらいるんだけどさ」


「そうなんだぁ~」




あたしは正直、こんな駅使いたくないけど。

目的があるから、ちゃんと駅が存在するんだね。




「スズ。
1つお願いがあるんだけど…」


「何?」


「スズの30分、俺にくれない?」




深く被っている帽子で、太一の顔は見えないけど。

真っ直ぐあたしを見ているってことだけはわかった。




「良いけど…。
どうせやることもなかったしね」


「本当ッ!?
スズの30分、俺にくれるの?」


「あたしので良ければあげるよ」


「ヨッシャ!
じゃあスズ、行くぞ!」




あたしは手を引かれ、改札へ向かって行く。










たったの30分

されど30分




この30分が

あたしの運命を変えるなんて

予想もしていなかったんだ―――――







< 10 / 69 >

この作品をシェア

pagetop