俺様紳士の恋愛レッスン
「……と、既にお持ちだったのですね」

「へっ?」



落とされた視線を辿ると、握り締めた拳の中で、無残にも丸まった名刺がコロンと寝返りを打つ。



「――あっ! すみません! 同期から奪って、夢中で走ってきたらつい……!」

「奪って?」

「だって、私はまだ頂いてなかったので……!」



動揺と、焦燥と、羞恥と。

宜しくない感情が混ざり合って、自分でも何を言っているのか分からなくなった私は、アスファルトの1点を見つめた。


……穴があったら突入したい。

そんなことを考えていた頭の上で、ふっと笑う音がする。



「名刺なんて、いくらでも差し上げますよ」



清涼な香りが、ふわりと舞った。

< 8 / 467 >

この作品をシェア

pagetop