好きだからキスして何が悪い?
群がる人に揉まれつつなんとかパンを買った後、ふたりで教室に戻ろうと歩いていると、担任のおじさん先生に呼び止められた。


「あ、ソエジマさん!」

「サエジマです」

「がはは! 悪い悪い、冴島さんな!」


私の肩をぽんぽんと叩いて豪快に笑う先生。

担任にすらちゃんと名前を覚えてもらえないほど私は存在感がないらしいけど、これも昔からだから気にしない。


「ちょっと今準備室来てくれる? 次の授業で使うから持ってってもらいたいものがあってさ」

「なぜ私が」

「文句言わずに頼み事聞いてくれそうだから」


にこにこ笑顔でそう言われた。

先生にまで私は都合いい女だと思われてるのか……。

ピクリと片眉を上げる私に、文ちゃんはククッと意地悪っぽく笑って、「先行ってるね~」と手を振っていた。


薄情な文ちゃんに内心さめざめと泣きつつ、先生が担当している化学の準備室へ向かった。

忙しそうな先生に続き、独特な匂いがするそこへ入ると、先生は資料を集めながら言う。


「これ、頼んだ! あと分子模型があるからそれも。ちょっとオレ急いでるから行くけど」

「わかりました」

「悪いね、よろしく!」

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