好きだからキスして何が悪い?
さっき手首を掴まれた一瞬、この手は如月くんじゃないかって、性懲りもなく期待してしまった。

でも、現れたのは琉依くんで。

もうきっと彼は来ないなって、直感したんだ。


だけど、来ない理由を聞くのが怖い。

フラれて当然って思っていたはずなのに、全然覚悟できてないや、私……。


「少しだけ、夢見ちゃったよ」


バイトの時、仲直りできて、ちょっといい雰囲気になれて。

こんな私でも、もしかしたら如月くんと距離が縮められているのかも、って。


そんなこと、あるわけないのに。

彼が私のことは好きじゃないってこと、忘れちゃいけなかったのに。


「でも、来てほしかった……」


本音がぽつりとこぼれて、賑やかな雑踏に消える。

『俺も付き合ってやる』って言葉、現実にしてほしかった。

また目に熱いものが込み上げてきて、地面がぼやけていく。


「ナンパされちゃうくらい、今日は可愛くしてもらったのにね! 全部、無駄だったなー……」


泣いているのをごまかしたくて、わざと明るい口調で言おうとしたのに、声は上ずって喉も詰まってしまう。

涙は溢れる一方で、堪えようと必死に唇を結んだ。

< 193 / 278 >

この作品をシェア

pagetop