笑顔の裏側に
ドアが閉まる音がすると、安堵の息が漏れる。

よかった。

これで先生に迷惑がかかることはないだろう。

先生はきっとわざわざ口止めしなくても誰にも言わないはずだ。

緊張の糸が切れたせいか、吐き気がこみ上げてくる。

きっとゼリーを無理やり入れたからだろう。

痛い足を引きずって口元を抑え、

洗面所にゆっくりと向かう。

そうして全て吐き出した。

指が水に触れるたび、傷口にしみて鈍痛がはしる。

昨日あったあの優しいぬくもりがすごく懐かしく感じた。

背中をさすって時より声をかけてくれる先生。

でも今はただ一人で苦しむだけ。

そう思うと辛かった。

吐き出すものが何もなくなっても何度も咳き込む。

気分が悪いのが治らない。

すると洗面所のドアが開いた。

鏡ごしにお母さんと目が合う。

「何やってのよ?勉強もしないで…。」

冷たい言葉が私の背中に降りかかる。

「気分悪くて…。」

馬鹿みたい。何を期待してるんだろう。

お母さんが私を心配してきてくれるはずないのに。

「なるほどね。そうやってあの先生の同情を引いたってわけ。見苦しいわね。私にはそんな通じないから。くだらないことしてないでさっさと勉強しなさい。」

どうして?

私、本当に体調悪いのに…。

気分悪くて吐いてるんだよ?

だけどそれさえも信じてもらえないんだね。

私は口をゆすぎ、洗面所から出る。

自分の部屋に戻る間にもボロボロと涙がこぼれ落ちる。

私はそれを必死に拭った。
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