笑顔の裏側に
「俺がそばにいたいから一緒にいるんだ。誰が何と言おうと、優美がそばにいて初めて俺は幸せになれる。」

最後は私の方を見て微笑んでくれる。

どこまでも私の欲しい言葉をくれる悠に、いろんな想いが溢れて言葉にならなかった。

「ごめん‥なさい。」

先輩は走って出て行ってしまった。

「大きな声出してごめんな。」

ブンブンと首を振って、全力で否定する。

全部私のためだもの。

机を蹴ったのも、大声を出したのも、耳を塞いだのも。

先輩の言葉を聞かせないため。

私が傷つかないようにするため。

「ありがとう。」

そう言った時、ドアが控えめにノックされた。

静かにドアが開けられる。

「神谷、悪いな。越川を止められなくて。大丈夫だったか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。それよりすみません。こんなことになってしまって‥。」

私も悠に降ろしてもらって、マスターの前に立った。

「ご迷惑おかけして、大変申し訳ございません。」

頭を下げた。

「頭を上げて?全然気にしなくてもいいからね?それより落ち着いたみたいでよかったよ。」

マスターの優しい言葉が今は辛い。

私のせいでこんなことになってしまったのだから。

全ては私が取り乱したことにより、事を大きくしてしまった。

マスターもお店も巻き込んでしまった。

「優美ちゃん、これ荷物ね。ここに置いておくから。」

店内に置きっぱなしだった鞄が机の上にそっと置かれた。

「神谷、今日はもう上がっていいから。越川のことは心配するな。」

「ありがとうございます。」

悠に倣って私も慌てて頭を下げた。

「優美、もう今日は帰ろう。」

その言葉に小さく頷く。

その日の夜はなかなか寝付けなかった。

多分それは悠も一緒だったと思う。
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